第149回「江戸の粋:火事襦袢vs現代のジャケット」
江戸の粋は火事襦袢と言われている。
刺子の分厚い木綿の襦袢を着て火消に向かう。その襦袢の裏側には派手な模様が描いてあることは知っていたが、表からは裏の模様が見えないので、どうしてそれが江戸の粋なのか分らなかった。
ところが調べてみると火消に行く時は黒い表の襦袢を着て行くが、火消から帰るときは派手な柄を表にして意気揚々と引き揚げるとのこと。なるほどそういうことだったのかと理解した。
じつはこれ、リバーシブル。表裏でずいぶん雰囲気が違います。
火事襦袢 黒木綿地波に雨龍模様刺子 江戸時代・19世紀
<引用元>東京国立博物館:1089ブログより
さて火事襦袢は今や高い値段で取引されるらしいが、やはり裏の文様がきれいであることが大切だ。龍や波などの水に関する文様は火が消えるようにとの思いがこめられている。
なるほど江戸の火消が見事に鎮火に成功した時の高揚した気分を、襦袢を裏返して表現したのだろうと思うと楽しくなる。
現代のジャケット
ある時、行きつけのブランドショップで裏生地に派手な柄のついたジャケットを見つけてすっかり気に入ってしまった。よくオシャレは我慢だと言うが、このブランドは機能的であることと、着て楽なことが売りなので、私は時々服を買う。
普通の紺のブレザー(いわゆる紺ブレ)だが裏にはバラの花が描かれている。エルメスのスカーフにでもなりそうなこの裏生地を気に入って買ってしまった。表のウールも普通のウールではなく縮緬のようなシボがあり、柔らかくて着やすい。
服を着てしまうと裏生地は全く見えないのでつまらないと思っていたが、実際には歩いている時は風になびいたり、座っている時は裾が裏返ったりして見えることが分かった。
ただし、火事襦袢のように単純な作りではないので、リバーシブルにはならない。こんな面白ジャケットはないと、大事にしてきた。
最近、そのショップを覗くと今度はニットの黒いジャケットが売られていた。裏生地のテーマは深海の生物、抽象的なこの柄を眺めていると、青い海の中で深海のクラゲをみているような錯覚に陥いる。表生地のニットはシワ加工がしてあるので、伸び縮みがしやすく、とても着心地がいい。リバーシブルに出来るが、さすがに裏生地を見せて着ることはなさそうだ。

江戸の粋
神戸生まれの私には江戸の粋は分からないし、私は火消に行くわけではないが、普通に着られるジャケットでありながらどこか派手が隠れているところが気に入っている。
ただ、関西では受けないかもしれない。「何恰好してんねん。あほちゃうか!」と言われそうな気もする。
- 第149回「江戸の粋:火事襦袢vs現代のジャケット」
- 2015年04月20日
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