第143回「整体師の資格」
親孝行の息子がお母さんの肩を揉んであげる。上手なので親戚のおばさんからも肩こりを治してと言われる。こんな微笑ましい風景もなくなりつつあるが、もしこの息子さんが患者さんを集めてお金をもらって治療をすることになれば問題が起こる。
事故が起こった場合、資格もないのに何故治療したのだ、こういうことを放置している政府が悪いという論議が起こる可能性がある。
長い間、政府は按摩マッサージ師や指圧師といった国家資格を持つ人にしかマッサージを許してこなかった。しかし、もう10年以上前に裁判が行われ、体を害することがなければそういったマッサージをしても法律には触れないということになった。
整体師という名称
整体というのは体を整えるという意味だ。背骨を真っ直ぐにする治療を整体というと確かに分かりやすい。オステオパシーやカイロプラクティクも骨のズレを治すという意味では整体であり、日本整体も体の歪みを治す治療だ。
ただし、整体に師がついた整体師という言葉は、特別な言葉で、国家資格を持たない人が、マッサージや指圧、按摩の類似行為を行う場合に用いられるようになった。法律でマッサージ師とか指圧師とか名乗れないからだ。
整体師になるのに試験はない。国家資格ではないからだ。
また国家資格である鍼灸師、マッサージ師、柔道整復師などが治療院を開設する場合、保健所の視察があり、換気が十分に行われているかどうかなどが調べられるが、資格のない整体師が整体院を作る場合には何の許可も必要ない。開業届を保健所に出す必要もない。巷に溢れているクイックマッサージはこういった所だと思えばいい。
資格者の能力
国家試験を通って資格を持っている柔道整復師やマッサージ師が、最初から治療が上手かといえばそうではない。
卒後の研修制度がないので安全に治療する能力と医学的な知識はあるが、治す技術は教えてもらっていない。私はいままで数多くの鍼灸師、マッサージ師、柔整師を育ててきたが、治療を教えるには時間がかかる。
では無資格の人と有資格者で上達度は違うのだろうか?
個人によって、手先の器用、不器用があり、必ずしも有資格者の方が有利とはいえない。
また整体はどれだけ丁寧な治療を心がけるかによっても腕が違ってくる。四角い座敷を丸く掃くような荒い仕事をすればすぐに治療を受けている人に感じられるもので、そういった治療しかできない人はたとえ有資格者でも腕が上がらない。
有資格者との違い
ある時、神戸の医院に併設する施術所に若い女性が施術を受けにきた。施術が終わると私の所に来て「私は整体師をしているですが、どうしてもここで働きたい。」と言い出した。
施術所は自費だけの施術を行っていたので無資格者に働いてもらっても法律的な問題はない。当時、何人かの有資格者が働いていたが、その中には勤務態度が悪くて患者さんから文句が出る人もいた。私は今まで有資格者しか雇ったことがない。でも自分から雇って欲しいというくらい熱心なら見込みがあると思って、雇ってみることにした。
雇ってすぐに分かったことがある。医学的知識がないので会話ができないのだ。本人は整体学校とかに行って医学も少しは学んだらしい。だが3年間みっちり学んで国家試験を通ってきた人とは比較しようがない。無論その場、その場で教えていくことはできるのだが、手間がかかって仕方がない。試験勉強で学んでいれば、忘れていても説明してあげると思い出してくれる。
手技に関しては見よう、見まねで覚えていくから素人と有資格者の差はあまりない。
坐骨神経痛のときはココとココを緩めるなどと教えて経験を積めば上手くなる。肩こり、腰痛、疲労は誰でも治せるようになる。難しい不整脈、バネ指なども治せるようになるかもしれない。
資格がなくても有能な指導者の下で経験を積み、その都度勉強していけば腕も上がるだろう。以前、無資格だがすごく腕のいい治療師を見かけた。指先の繊細さがとても優れていて病院で数多くの患者を治していた。病院勤めなので、まさか無資格とは思わなかった。
無資格者だからといって必ずしも技能が劣るわけではない。私が雇った女性は自分が習ってきた妙な施術が改まらなくて、様々な医療トラブルを起こした。結局、都合が悪くなると勝手に辞めてしまった。
これから整体師を目指す人もいるかもしれない。私からのアドバイスだが、決してクイックマッサージのようなチェーン店には勤めていけないし、整体学校もお勧めできない。
本当に治る素晴らしい術は、商売のネタだから誰も教えてくれない。私は医者だから従業員にはどんどん教えているが、医療として考えていない施術を学んでも何の意味もないことは明白だ。
最近、長崎から日帰りで整体を受けに来た患者さんがいた。神戸から泊がけで銀座の整体を受けにくる人もいる。整体やマッサージの施術所は数あれど、本当に治す技術を持っているところはほとんどないといっていい。
- 第143回「整体師の資格」
- 2014年10月20日
こちらの記事もあわせてどうぞ
香杏舎ノート の記事一覧へ
患者さまお一人お一人にゆっくり向き合えるように、「完全予約制」で診察を行っております。
診察をご希望の方はお電話でご予約ください。
- 読み物 -
- ●2024.09.10
- 第64話「未知の不安」
- ●2024.09.01
- 111.アトピーの不思議
- ●2024.08.25
- 第310回「好きな1万円札と嫌いな1万円札」
- ●2024.08.20
- 第309回「大学受験をせずに医者になる方法」
- ●2024.08.10
- 第308回「漢方丸薬を効かす方法」
※ページを更新する度に表示記事が変わります。