第119回「足の裏の痛み(中足骨骨頭痛)」
足の裏は平らではない。[土踏まず]というくぼんだ場所がある。何故、土踏まずがあるのだろう。足の裏はまっすぐで、平らなほうが安定する気がする。じつは土踏まずがくぼんだ格好をしていることで、それがバネのような働きをして着地のショックを吸収してくれる。また、前のめりになって倒れかけたとき、足で踏ん張れるのもこの土踏まずのおかげだ。土踏まずは親指から踵にかけての縦のアーチだが、じつは足の裏にはもう一つアーチがある。それは親指と小指が一番地面に近く、その他の3本の指はこの2本の指より高い位置にあるという横のアーチだ。そういうアーチがあって足が前後左右にバランスを取り易いように、また指の踏ん張りが利くような解剖学的な構造になっている。
横のアーチ
足の裏を何度しげしげと見つめても、横のアーチを見つけることはできない。このアーチは指に力を入れて立っている時や、地面を蹴って歩いているときに生理的に形成される。だから力を抜いて親指いるときに足の裏を見ても分からない。ともかく親指と小指の付け根の所が一番低く、他の指の付け根が高いというアーチがあり、土踏まずと共に足の安定を保っている。
平らな地面と指の運動不足
横のアーチは失われやすい。狭い靴を履いていると、足の指の踏ん張りが利かないからアーチを作る筋肉が弱ってアーチが失われてしまう。また平らな地面というのも問題だ。都会に暮らしていると、凹凸の地面を歩くということがない。デコボコがないと足の指は踏ん張ることを忘れてしまう。するとやはり筋肉が弱ってアーチがなくなる。そうなると、どういうことが起こるのだろう。親指の隣、2番目の指(人差指にあたる)の付け根が直接地面に打ちつけられて腫れ上がってくる。これを第2中足骨骨頭痛という。この病気は整形外科でも分かりにくいことが多く、痛風と間違われることもある。
どんな人に多いか
足の甲が高い人や足の幅が広い人は大きめの靴を好む。大きめの靴は楽だ。だが、靴という指先に力が入りにくい状態で広めの靴を履くことは、ふんばる力が無い状態で足の裏を平らな靴底にぶつけることになる。こういう靴を履き、普段からよく歩く人がこの病気を起こしてくる。
治療
もう6年ほど前だが、私はこの病気になった。ある晩、私は足の裏の痛みに目を覚ました。見ると足の甲が赤く腫れ上がっている。そういえば昨日、なんだか足の指の付け根付近に違和感があったのを思い出した。病院で検査しても尿酸値は正常、骨のレントゲンも異常ない。痛み止めを飲んでおとなしくしていれば痛みは和らぐものの、なかなか治らない。整形外科を受診したが、何も言われなかったので、原因不明の痛みに落ち込んでしまった。あまりの痛さにギブスのようなもので足の裏を固定してやれば痛くないのではないかと、何気なく靴を探しにいった。偶然、中足骨パッド(中足骨の後ろを持ち上げて骨頭が地面にぶつからないようになっている)の靴を見つけて履いてみると、痛まずに歩ける。そこでその靴を包帯代わりに履いて寝たら随分と楽になった。鎮痛剤を飲み、その靴を履くことで次第に痛みは消えていった。それからというもの私はこの病気と靴に興味を持つようになった。
痛くなった夜の何日か前、グアムで買ったバリーの靴を履いていたのを思い出した。サイズは幅広を買ったので、ゆったりしていたが、なんとなく窮屈な感じがしていた。ひょっとしてこの靴が原因ではないのか。そんな疑問を持っていた。あるとき大丸に行くと、イタリア人の靴職人が靴作りのデモをしていたので、このことを聞いてみた。「何処でバリーの靴を買ったのか」とその職人は尋ねた。私が「グアム」と答えると、「サイズは」と聞く。「エイトハーフ」そう答えると、店員に自分の作った靴を持ってこさせて「これを履いてみろ」という。その靴は随分甲高に作られていたが、私の足にはぴったりだった。「アメリカ向けの低い甲の靴で痛めたのだろう」とその職人は言う。つまり私の足は幅広というより甲高で、天井の低い靴で横のアーチが潰されて中足骨の骨頭痛を起こしたことが分かった。
中足骨の骨頭痛の患者さんは意外に多い。診断がついていないこともある。私は何人かの患者さんを痛み止めと靴で治した。凝り性の私はマイスターの資格を持っているドイツ人に中足骨パッドのついた中敷を作ってもらい、ドイツから木型を取り寄せてオーダーシューズも作った。さらに、様々な靴屋で特製の中敷を作ったりした。そういった多くの試行錯誤の中で得た結論は、ほとんどの人には既製の中足骨バッドのついた靴で十分だというものだった。
私の感想
中足骨骨頭痛を防ぐにはフィンコンフォートやビルケンシュトックといった中足骨バッドのインソールが入った靴を買うといい。ただし炎症のきつい時は靴底が固くて痛むこともある。だから自分にあった靴を探す必要がある。紐靴でも自分にあったものであれば、中足骨パッドがなくても痛まないこともある。足先が広く甲の部分の靴底が細くなっている靴で、靴紐をしっかり絞めると、自然に横のアーチが出来上がる。大丸で履いたイタリアの靴はそういう点で私に合っていた。インソールは医者で診断書を貰えば保険で作ることができるが、そこまで必要な人は少ないだろう。
もし足の裏が痛くなったら、中足骨パッドのついた健康サンダルを履いてみることを勧める。靴を買うより安価に試すことができるからだ。
- 第119回「足の裏の痛み(中足骨骨頭痛)」
- 2005年10月20日
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