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漢方医

第7回「井穴鍼」

井穴(せいけつ)鍼

カイロプラクティックやリンパマッサージなど多くの治療を見学にいったが、思ったほどには成果が得られなかった。だがそんなものだろう。どんな治療でも治療師はそれを生活の糧にしている。だから私のような赤の他人に治療を見せてくれるだけでも感謝しなければならない。治療を少しでも見れば参考になるのだが、系統だって一つの治療を学ぶ機会は訪れなかった。しばらくして、私は旅先で一人の鍼灸師と知り合うことになる。

ある時、宮崎の医師会から講演を依頼された。講演後、私の講演を聞きに来ていた病院の院長が指先のツボ(井穴)だけで腰痛や肩こりだけでなく、リウマチや五十肩なども治す鍼灸師が自分の病院にいるので明日でも見学に来ませんかと誘ってくれた。

病院に行くと、60歳過ぎの鍼灸師が白衣を着て座っている。その前に1人の患者さんが丸椅子に座って治療を受けている。治療中の患者さんの後ろに10人ばかりの患者さんが縦一列に丸椅子に座って順番を待っている。一番前の患者さんの治療が終わると、全員が立ち上がって一席ずつ前へ進む。椅子に座った患者さんの列の後に、さらに10人ばかりの患者さんが立って順番を待っていた。
1人の治療時間はわずか1分足らずで、どんどん行列が進んでいく。患者さんは手の指とか足の指(井穴)に鍼をしてもらう。鍼はバネで鍼が飛び出す特殊な物で、鍼を打つたびにパチンパチンと爪を切るような音がする。1日に350人から400人もの人を治療するという。
私は井穴以外のツボにも効果があるのかと思って、その鍼灸師に「背中のツボに打っても効果があるのですか?」と聞いた。すると院長が横から割って入って「ダメ、ダメ、先生ダメです」とさえぎった。なぜ院長がさえぎったのかは分からなかった。私がその場を離れようとすると、鍼灸師は誰にも気づかれないように小さな紙切れを差し出した。私は黙ってその紙切れを受け取り、帰りの飛行機の中で紙を見た。神田という苗字と電話番号が書かれていた。家に帰ると早速電話した。聞いてみると、「他のツボにうっても、もちろん効果がある」という。そこで「神戸まできてください」とお願いしたところ快諾を得た。

数ヵ月後、鍼灸師の先生のためにホテルを予約し、料亭で接待した。神田先生は「背中にうつのも大変効果がある。だが院長は井穴のことしか興味がなく、この井穴鍼を自分の手柄のように自慢するのだ」と胸の内を語った。話題は背中のどこに鍼を打つかに移った。この質問をするために数ヶ月も待たされていた私は早く知りたくてしかたなかった。先生はツボの話を始めたが、口で説明されてもわかりづらい。面倒になった私は上半身裸になって背中のツボを押してもらいながら説明を聞いた。聞きながら仲居さんが座敷に入ってこないことを祈った。

翌日、患者さんを前にした実技はすばらしいものだった。のべ数十万人にも鍼をしてきたので、理論が精緻にできており、即効性があった。たとえば左の小指の井穴に鍼をすれば、体のどの部位の痛みが取れるかが、きっちり決まっている。その場所は小指の井穴から線を引いたようにつらなっており、肘部で親指側に回り込み、肩でさらに小指側にもどるというふうに体の各部位で方向を変えながら走っている。各指の井穴ごとにそれらの線(経絡)が交差して走っているから、説明を聞いても容易に覚えられない。そこで長袖の下着と股引きを買ってきた。そしてそれを着て、経絡の走行を先生にマジックで書いてもらった。これを教科書として鍼のうつ場所を覚えていった。これ以後、半年から一年に一度の頻度で来てもらい、足掛け七年にわたって教えてもらえた。
おかげで井穴や背中のツボには大変詳しくなった。この治療体系のなかで興味深かったことは、経絡の走行が従来いわれている経絡と全く違ったことだ。経絡といえば、ツボと経絡が描かれた人形の写真をお見せしたが、それとは全く違う場所に経絡が走っているのだった。

先生にこの鍼をどこで学んだのですかと聞いてみた。先生は中国大陸を放浪している時、女性の治療師が小さな石弓のような道具を使って治療しているのに出会った。引き金を引くと矢の部分にあたる鍼が飛び出して皮膚に刺激を与える仕組みになっている。興味を持った先生はそこに居候しながら鍼を覚えた。数ヶ月後、治療を教えてくれたことに感謝して立ち去ろうとすると、女主人が別れの宴を開いてくれた。メイン料理は猿の生き造りだった。猿は座った格好で台に固定され、額に金属のリングが被せられている。リングから出た釘が頭を固定している。固定されている額から上の頭蓋骨は取り除かれ脳膜を通して脳が見える。猿は麻酔でもかけられているのだろう、うつろな目をして身動きしない。この猿の脳ミソをスプーンですくって食べるのだ。猿は自分の身を哀れんで涙を流すという。先生は吐き気をもよおしてその場から立ち去った。

何故、神田先生は私に自分の治療技術のすべてを教えてくれたのだろう。それは私にも分からない。多分、私が神田先生に尊敬を払い、失礼のないように教えを請うたからだろう。先生は「私には子供がいないので、すべての技術を引き継いで欲しい」と言ってくれたのだった。

レントゲン技師の婆さん

私は見学してきた色々な治療を診療の中で実践しながら洗練していった。いい治療なのだが手間がかかりすぎるものもある。よく効くのだが患者さんに受け入れられないものもある。そういう治療を簡素化し、洗練して残していった。
多くの治療を見てきて思うことは、〔一つの治療が他の治療より断然優れていることはない〕ということだ。どの治療も上手な先生がやれば驚くほどよく効く。治療の種類より治療をする人の技量の差が大きい。学んできた治療を整理していく中で、私の知識に欠けている分野があるのが分かった。筋肉をマッサージする整体系の治療が不足していたのだ。そこで今度はマッサージに焦点を当てて研究を始めた。

変わった経歴の女性マッサージ師がいた。県立病院のレントゲン技師をしていたのだが、レントゲンに写る骨の歪みに興味を覚え、年金がもらえる年齢になると病院を辞めてマッサージ師の資格を取った。治療は左右の人差し指か親指を使って体の離れた2つの圧痛点をじっと押さえる。そうしながら左右二本の指の間にある筋肉を緩めていく。治療は長い時で3時間もかかる。時として婆さんはうたた寝をしながら治療をする。すさまじい治療だ。治療に関しては何も教えてくれないので、患者として足しげく通った。仰向けに寝かされ首の治療が始まると、私はいつも深い眠りに落ちてしまう。ふと目を開けると白髪でオカッパ頭の婆さんが顔をのぞき込んでいて、びっくりする。

治療が長いので、雑談をしながら治療を受ける。「この間、当直していると、過換気症候群の若いお嬢さんが運ばれてきてね。家族は何事が起こったかと大騒ぎをしていたよ」と私は話を始めた。

過換気とは呼吸をしすぎることによっておこる病気という意味だ。呼吸をしすぎると、どうして病気になるのだろう。呼吸によって人は酸素を体の中に取り込み、不要な炭酸ガスを吐きだす。余分な炭酸ガスはできるだけ体の外に出し、酸素をできるだけ多くとりこんだほうが体には良い。だが面白いもので、不要と思われる炭酸ガスも血液中に溶け込んで血液がアルカリ性に傾きすぎないように調節する働きをもっている。もし呼吸を短い時間 内に幾度も繰り返すと、必要以上の炭酸ガスが体から出ていって、体液がアルカリ性に傾く。すると筋肉が硬直する。ひどくなると手足を伸ばしたまま身動き一つできなくなる。金縛りの状態だ。こうなると患者さんはパニックにおちいって、ますます激しく息をするから、ますます硬直がひどくなるという悪循環になる。過呼吸は精神的なストレスが原因とされているので、神経科の病気と考えられている。

教科書には治療について次のように書いてある。まず患者さんによく病気を説明して心配ないことをわかってもらう。そして患者さんの口を紙袋で覆う。こうすることで患者さんは一度吐いた息を何度も吸うことになる。つまり、結果として炭酸ガスの濃い空気を吸うことになる。これによって血液中の炭酸ガスの濃度が元にもどって硬直が取れる。すると患者さんも安心して普通の呼吸ができるようになる。理屈はこうなのだが、パニックにおちいっている患者さんが冷静な耳を持っているはずもなく、適当な紙袋が手じかにあるわけでもない。紙袋で患者さんの口を覆ってみたところで、首を左右に振って拒否されることが多い。だから現実には鎮静剤の注射をうつことになる。
この話を聞いた婆さんは、「過換気症候群は神経科の病気では無い」と言う。
「体の歪みから横隔膜がひきつれて呼吸がしにくくなるのが原因よ。胸郭の筋肉が凝って固くなると横隔膜が動かなくなる。すると深く息を吸うことができなくなるわけ。だから患者さんは息ができなくなるのではないかと、不安になって浅い息をくりかえすの。筋肉をほぐすと横隔膜がよく動くようになって治るわ。横隔膜が肋骨の下についている、そう、この辺を押せばいいの」といって、いきなり私の胸と腹の境あたりをグーと押した。ギャーと痛みのために私は思わず声をあげた。婆さんの話を聞きながらふと何人かの過換気の患者さんのことを思いだした。いずれの患者さんもひどい肩凝りを同時に訴えていた。確かにそういう可能性もあるかもしれないと思った。

ある日、典型的な患者がやってきた。過去に何度か過換気の病歴がある中年の女性だ。話を聞くと、何度も病気をしているので、「発作がいつおこるのか」が自分でわかるという。疲れて肩がこりだすと呼吸が浅くなるという。その患者さんに婆さんから教わった治療をしたら発作が治ってしまった。なるほど神経科の病気でも筋肉の凝りから病気がおこるのだと思った。

痛いけれど痛快な治療

もう一人、神経科の病気が筋肉の凝りからおこることを教えてくれた治療師がいる。平谷先生だ。先生は神経科の病気の治し方だけでなく、筋肉の緩め方についても大変重要な方法を教えてくれた。

先生は、背は低いのだが胸板が厚く、腹はえぐれたように引き締まっている。とても70歳とは思えない体つきだ。柔道3段、合気道4段、道場でのあだ名は化け物というほど体力がある。指も太く、親指の太さは私の2倍以上だ。
そんなに体力があるのに患者をうつ伏せに寝かせて背中の筋肉を緩めるときには木の棒を使う。自作の棒で、背骨の両側にある筋肉を押して緩めていく。背中の起立筋は姿勢を保つ筋肉なので、とても指では緩まないのだ。この先生の治療は痛い。痛くて悲鳴を上げそうになる。だが治療後、とても爽快な気分になる。「3人ばかり気絶させたことがある」と平谷先生は冗談をいう。 治療を受けて分かったのだが、痛いほどに筋肉を緩めないと筋肉の芯が緩まない。アンマに行ってもすぐに凝ってしまうというのは、芯の凝りが取れていないためだ。先生はきつく押すのだが、後で揉み返しがほとんど起こらない。その秘訣については、私にこっそり教えてくれた。

先生は猫背も治るという。つまり歪んでしまった骨格でも治るというのだ。私は子供のときからの猫背なので、本当かどうか7ヶ月で100回通った。すると確かに猫背はよくなり、肩幅も広がって、洋服のサイズが42から44に変わってしまったから、手持ちの上着が着られなくなった。
腕のいい平谷先生なのだが、治療中にヤラシイ話ばかりするので閉口した。「仙骨のあたりに男性を勃起させるツボがある。昔、マッサージ学校の同級生だった女の子に仙骨付近を指圧してもらっていると、急に勃起してしまった。決して同級生が好きだったわけではない。とても不思議だったので、女の子にパンツを下げて見せた」という。私は内心また始まったと思った。「自分で治療していても時々男の人が勃起する。そんなときは知らんふりをして治療を中断してあげる。もしこのツボが解明されれば、大金持ちになれる。インポテンツで悩んでいる年寄りが高い料金でも治療を受けにくるはずだ」という。なんて馬鹿な話をするのだと思っていたが、何度も治療を受けるうちに私も2度ばかり硬くなりかけたことがあり、この話は嘘ではないと思うようになった。

ある日、平谷先生は、めずらしくまじめな話をした。「うつ病の患者を治したことがある。左の首が凝るとウツになり、右の首が凝ると躁病になる」という。ちょうどその時、私の医院に重症のうつ病の患者さんが通っていた。起きる時間は夕方、寝るのは明け方、昼夜が逆転して、精神科で多量の抗ウツ剤を投与されていた。平田先生の言うことが本当なら少しくらい効くかもしれないと思ったので、受診を勧めてみた。
患者さんから電話がかかってきた。「治療を受けてから急に眠れなくなって、ここ2日間まったく睡眠が取れない。大丈夫でしょうか?」という。一般に、うつ病の人の睡眠は逆転したようになる。躁病の人は興奮して何日も眠れない。私は「ウツ状態から躁状態に転換したのではないか。体が反応していることは間違いないからもう少し治療を続けてみては」とアドバイスした。すると治療を続けるうちにウツ病は治ってしまった。

平谷先生の体験とレントゲンの婆さんの経験から筋肉の凝りや体の歪みからうつ病やパニックになることもあるのだと分かった。考えてみると当たり前のことかもしれない。西洋医学では心の問題は精神科で体の問題は内科や外科が扱う。だが、実際には心と体を切り離して考えることはできない。健康な肉体に健康な精神が宿る。うつ病や過換気症候群などの人の肉体を健康にしてやれば、異常な精神状態が治っておかしくはないのだ。

ノートにまとめを書く

家に帰ると、私は治療見学ノートを出してきて平谷先生の治療について書いた。その後にいままで習ってきた整体や鍼灸などの治療についての感想を図入りで次のようにまとめた。

人間の体は200あまりの骨で骨格が作られている。この骨と骨をつなぎ合わせているのが筋肉と腱だ。子供のときは筋肉や腱に弾力があるから肩こりや腰痛は起こらない。だが机の前に長時間座って勉強をしたり、前かがみの仕事を強制されていると、一部の筋肉だけが固くなる。硬くなった筋肉に引っ張られるように骨の位置がずれて骨格に歪みがおこる。すると腰痛や肩こりが起こり始める。さらに老眼が起こる年になると筋肉の弾力が失われてくる。老眼は毛様体筋とレンズが固くなってピントが合わなくなる現象だから、目の老化は筋肉の硬化の始まりと考えていい。こういう状況になると、肩こりや腰痛は簡単には治らなくなる。五十肩、変形性膝関節症も筋や腱が固くなり骨格が歪むことで起こる。これを治す治療が鍼灸、整体、カイロだ。

骨と筋肉の関係

オステオパシーとカイロプラクティックは骨を中心に考える。骨を目印にして、その骨に急激に力を加えることで正常な骨の位置に戻して骨格を正常にしようとする。整体やマッサージは筋肉を中心に考え、萎縮した筋肉を揉みほぐすことで筋肉の弾力を回復させ骨格を正常にしていく。鍼灸は温痛覚の刺激による反射を利用して病気を治していく。骨を中心に考えると、どうしても骨を無理に正常な位置に押し込もうとして骨折を起こす可能性がある。鍼灸は温痛覚の反射を利用する方法で効率がいいが、反射点を調べるには時間がかかる。萎縮した筋肉をマッサージで緩めていくのは効果が確実で、しかも解剖学の知識で異常場所を確定しやすい。努力して効果が出やすい方法は整体なのだろう。

体に物理的刺激を与えて治療するこれらの方法は、一般に考えられているより奥が深い治療だ。オステオパシーの方法に準じれば、視力がよくなり、整体系の治療では過換気症候群とうつ病が治った。耳鍼では無痛抜歯ができる。私の治療でも胃炎や不妊が治ることもある。研究を続けながら治療を洗練していきたい。そう書いてノートを閉じた。

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