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夢の中の老人

第5話「東京以外は貧乏になっていく 」

私が神戸のトーアロードにあるピザ屋、アズーリに通い始めて3年が過ぎようとしている。毎週決まっていくので、食べたピザの数は150枚ほどになるのだろう。特に気にいっているのがチェポラ・エ・アチューゲ(トッピングがチーズと玉ねぎとアンチョビ)、次がロマーナ(マルガリータにアンチョビ)だ。
この店に通うようになる前はナーノだとかバレンティーノだとか池田屋といった多くのピザ屋に行ってみたが、ここが一番美味しかった。私が今までにピザをどれだけ食べたか正確には分からないのだが、少なくとも300枚以上は食べている。だからピザの味について多少コメントしてもいいのだと思う。

ピザ屋辻調理師学校の創設者の辻静雄によると、フランス料理の味が分かるのには1200食のフレンチのフルコースを食べる必要があるという。仮に週に一度食べに行くなら24年かかる計算になる。フレンチと異なり、ピザは小麦粉、塩、トマトソース、チーズという単純な素材から出来ている。だから300食も食べれば、その本質をつかむことができるはずだ。

東京には有名なピザ屋がある。表参道のNだ。ここのピザ職人はイタリアのピザコンクールで2年連続優勝した腕の持ち主だ。そこでここのピザを試すべく東京に出かけることにした。店に予約の電話を入れると携帯電話の番号を聞かれた。

予約当日、渋谷で買い物をしていると店から電話がかかってきた。予約時間まで3時間ほどある。電話に出ると「今日、来るのですか?」と聞く。「もちろん行きます」と答えたのだが、何故電話が掛かってきたのかが分からない。多分、「ドタキャンを防ぎ、できるだけお客を入れたい」のだろうと思った。6時半の予約だったので10分ほど早めに行った。すると店の前には人だかりができている。定刻にならないと店に入れてもらえないのだ。ピザの値段は少し高めだ。水を注文するとミネラルウオーターを買わされた。私もフレンチレストランではミネラルウオーターを買うことがあるが、そこまで気取って金を取るのかと思った。なにせ食い物はピザなのだから。出てきたピザの生地は固く美味しくない。期待はずれで、がっかりして帰った。

しばらくしてここのピザコンクールで優勝した料理人が独立して中目黒で自分の店をもったというので行ってみることにした。出てきたロマーナはチーズもアンチョビもアズーリの3分の1ほどしかなく、味も悪い。なのに、値段は2100円もする。まずいものを食わされた時のなんともいえない不快感が襲ってきた。ここのオーナーはイタリアで優勝するくらいだから美味しいピザを焼ける腕があるのは間違いない。それなのにどうして、こんな手を抜いた商売をするのなのだろう。でも東京ではここが大変な人気だという。東京って本当に不思議なところだと思っていると例の老人が現れた。

「ところで君はその店で文句をいったのか?」

「もちろんです。まずいと言ってきました。それが親切だと私は思っています。客は料理人を育てるものです。馴染みのうるさい客が来ると料理人も緊張します。そういう緊張感の中で調理人は育っていきます。美味しければ毎回旨いとも言います。褒めることが料理人の自信にも繋がります。でも今回はそういうレベルの話ではないのですが。」

「なかなかしっかりしているな。東京って変わっているだろ。俺が東京のことを研究する必要を感じたのは今から10年ほど前だ。それから色々と研究を重ねて東京以外に住む人はますます貧乏になっていくことが分かったのだ。」

「本当ですか?」

「今まで東京についてまじめに研究した奴は誰もいない。特に地方に住む人間はそうだ。俺が東京の研究が必要だと感じたのは神戸に住む友人の金持ちが没落したからだ。そいつは親から50億ほどの財産を相続した。ほとんどが土地や建物だった。財産を売らずに相続税を分割払いにして、やりくりしているうちに土地が暴落してほとんどすべての財産を失ってしまった。俺は友人として早めに財産を処分して税金を払うことを勧めたのだが、一万坪を超える自宅を含め、自分の持っている不動産には思い入れがあったようだ。

東京のマンションはバブル崩壊後も値上がりを続けているマンションが幾つもあると聞いた。とくに有名なのが広尾ガーデンヒルズだ。バブル前の1985年に1億ほどで売り出された後、25年後の今でも当時より1-2割上昇した値段で取引されている。俺の友人は財産を失ったのに東京では未だに値上がりしている物件がある。もしそうなら東京を研究しなくてはいけない、そう思った。

そこでそのマンションがどんなものなのか調査に出かけた。地下鉄の広尾駅に降り立ってびっくりした。駅にはエレベーターもエスカレーターもないのだ。狭い階段を使って地上に出て広尾ガーデンヒルズの周りを歩いてみた。都心にしては緑が多くてゆったりとした間隔でマンション群が建てられている。近くには有栖川公園があり、古びた商店街もある。

しかし、関西の芦屋に住んでいる俺からすれば何故ここが高級な住宅地なのか分からない。特に問題なのは坂が急なことだ。年をとって徒歩で駅を利用するのは無理だし、だからといって都心で車を使うのは不便だ。近くにはナショナルスーパーというマーケットがあるが、狭い駐車場に車がひしめいていて買い物に行くだけでも疲れてしまいそうだ。

俺の住んでいるJR芦屋駅には大きな駐車場があり、車を止めて駅に隣接するショッピングモールや芦屋大丸で買い物をすることが出来る。駅にはタクシーも多い。タクシーの運転手から聞いた話だが、小さな駅なのに200台ものタクシーがあって、乗車率は日本一だそうだ。芦屋には緑が多く、閑静な町並みが広がっている。また海沿いの芦屋浜と呼ばれる地域にはヨットを家の前の桟橋に止められる邸宅も売られている。だから広尾ガーデンヒルズが高級マンションだと言われてもピンとこないのだ。

こで他の東京で高級住宅地を回ってみた。成城学園前、田園調布、松涛などだ。確かに高級住宅地だが値段ほどの高級住宅地とは思えなかった。面白かったのは松涛という最高級の住宅地から歩いて10分ほどのところにラブホテル街が広がっていたことだ。」

「東京の高級住宅地は値段の割には高級ではないのですね。なにやらピザの話に似ていますね。」

東京「そうだろ。芦屋の高級住宅地は間違いなく高級住宅地だ。だが東京のそれは高級住宅地とまでは言えないものが多い。 俺は広尾ガーデンヒルズが中古マンションなのに何故高いかを詳しく検討してみることにした。まず立地だ。東京らしいと感じる地名といえば、この広尾をはじめ、赤坂、六本木、青山、渋谷、表参道、白金、麻布十番、恵比寿、代官山といたところだ。面白いことにこの場所はせいぜい一辺が5-6キロの正方形の中にすべて入ってしまうのだ。」

「そんな狭い範囲なのですか?」

「そうだ。当たり前のことだが東京は広い。
青梅市や西東京市もある。だがこの6キロ四方がもっとも東京らしい場所といえる。テレビでよく出る東京の映像といえば渋谷のスクランブル交差点と新橋のSL広場だが、この地域に含まれる。

確かにこの場所は魅力的だ。数多くの大使館、日本中の大会社の本社、国会、霞ヶ関、有名大学などがここか、またはここに隣接している。つまり関東圏に住む4000万の人間はこの狭い範囲に住みたいと願っている。だからマンションの値段が下がらない。さらに新しいマンションを建てたくてもいい立地がない。いい場所にゆったりと建っているマンションは10-20年前に建てられた古いマンションしかない。だからヴィンテージマンションと称して高値で取引されているのだ。」

「なるほど。東京のなかでも本当に限られた地域なのですね。」

「日本にはすでに500万戸もの空き家がある。特に地方では過疎化から値段のつかない空き家が沢山ある。日本の人口は減少し始め、毎年60万人減っていく。60万人といえば地方の大きな都市が一つずつ消えていくほどの数だ。

日本の人口動態調査を見ると人口の増えている都道府県は関東圏(東京、神奈川、千葉など)と関西圏(滋賀、兵庫など)それに沖縄しかない。この3つの地域以外は人口減少が続いている。さらに詳しく見ると関東圏の人口増加は関西圏や沖縄に比べて飛びぬけて高い。だから関東圏の不動産の値段は下がりにくい。

もう一つ大切なことはそこに住む住人の所得がどうかということだ。東京の県民所得は460万、神奈川330万、大阪310万、沖縄200万だ。つまり高所得者が集まってくるから不動産の値段が上がりやすくなっている。もし私の友人が関東圏のいい場所に財産をもっておれば破産寸前にまで追い込まれることはなかったと思う。」

「確かにそうでしょうね。運が悪いとしか言いようがないですね。」

「東京に人が集まるのには理由がある。仕事があるからだ。霞ヶ関や国会といった政府機能があるだけではない。すべての放送局、新聞社、大会社の本社、有名大学などが集中している。とくにここ数十年、多くの企業が東京に本社を移している。
以前、関西には大きな会社が沢山あった。パナソニックは門真に、朝日新聞は中ノ島にあった。住友をはじめ多くの会社があったのだが、次第に本社を東京に移していった。本社が東京に移れば、東京で雇用が生まれ、巨額の法人税が東京都に入る。人が増えるから消費も増えて豊かになる。地方から本社に出張する人も増えるから宿泊施設も儲かることになる。
つまり東京が人をブラックホールのように集めるには理由があるわけだ。地方が疲弊し東京だけが栄えているのは政府が東京を便利にしてすべての会社、団体を集めているからだ。」

「なるほど。ピザにしても高級住宅地にしても実際にはそれほど洗練されているのではないのに東京に集中する機能のように、すべてが日本一すばらしいものだと関東の人は勘違いしているのですね。」

「そうだ。困ったことに政府は東京ばかり便利にすることを考えている。最近はハブ空港やハブ港まで東京に作ろうとしている。ハブ空港やハブ港に適しているのは神戸だ。東京からでも2時間半ほどで来られる。世界的な観点から見ると関西と関東は非常に近い位置にある。だからハブ空港とハブ港の両方が神戸にあっても何の不思議もない。東京だけを儲けさせても地方にメリットはない。地方の疲弊は仕事がないからで、それは東京が吸い取っているといってもいいだろう。」

「どうして地方空港の神戸がいいのですか?」

「まず新幹線の駅と空港が極めて近いこと、さらにまだ多くの空き地があるから様々な施設を安く作ることができるからだ。旅客事業だけでなく、航空貨物と船貨物を合わせた工場地帯を作ればすばらしい世界の工場になる。だが神戸空港を潰したのは神戸市民だ。」

「神戸空港を潰したといいますが、神戸空港は現にあるんじゃないですか?」

「今の神戸空港ではなく、関西空港を何処に作るかというときに神戸市民は反対したのだ。」

「本当ですか?」

「1980年当時、国は神戸港沖に大きな空港を作ろうと神戸市に打診した。そのとき反対したのが神戸市民だ。市長は宮崎さんだった。宮崎さんのことはあまり悪くいいたくない。俺の祖父がなくなった時、宮崎市長はパトカーに先導されて焼香に来てくれたからな。だがそのとき空港を作っておれば神戸だけでなく関西のためにもすごく役にたったはずだ。今ある関西空港は旅客に使うにも貨物に使うにもとても不便だ。その当時の神戸港の貨物の取扱量は世界第4位だったのだから、神戸沖に作っておけばこれほど神戸港の貨物取扱量が落ち込むこともなかったはずだ。本当にお馬鹿な市民だよ。」

「本当に残念ですね。もし空港が出来ていればお友達も財産を失うまではいっていないかもしれないですね。」

「神戸市民も含め、地方の人間は本当に何も考えていない。よく地方の青年会議所の連中が町おこしとか称してご当地ラーメンなどを売り込もうとしているだろ。あれほど馬鹿なことはない。」

「どうしてですか?」

「そんなもの何の役に立たないことは誰の目からみても明らかじゃないか?雇用など生まれやしない。それをするぐらいなら会社を誘致することに情熱を注いだほうがよほどましだ。バス停一つ動かすのに国土交通省の許可がいるような規制を変え、地域主権を目指す革新的な知事や市長を選挙で選んで、会社や工場を地元に誘致することだ。

ところが知事の6割は自治省を中心とする官僚出身だ。そいつらは東京のことしか考えていない。残りは市政40年、一筋に勤め上げてきましたというような人物だ。こいつらは東京のことを何も知らない。青年会議所の連中は選挙ではそういう人を応援しておいて、町おこしは無いだろう。そう思わないか?」

「なるほど。何が間違っているのですか?」

「権力についての認識だ。権力を行使しない者は骨の髓までしゃぶり取られる。関東圏外に住む8000万人が自分たちの権利を行使すれば地方分権は明日にでも成し遂げることができる。自分たちの置かれている立場を明確に認識して権力を振るうことだ。権力だよ。資本主義国家で権力とはつまるところ選挙と金だ。」

「つまりクーリーンな政治を目指しながら地方分権をしていくということですか?」

「そういう認識がそもそもの間違いだ。政治には金がかかる。最近、鳩山が母親から十数億円政治資金を出してもらったと大問題になった。だが母親が金を出していなかったら民主党なんか消えていたはずだ。とても政権交代は出来ていないだろう。自民党政権時代、経団連は30億を自民党に献金し、民主党には1億弱しか献金していなかった。どの業界団体も野党だった民主党を応援したりしない。そんな中で誰かが金を出さなきゃ選挙なんか戦えない。
もし地方が本気で立ち上がれば関東圏と血みどろの戦いになる。多分、関東圏はマスコミを動員して政府機能の分散のデメリットや経済についてのマイマス効果を盛んに宣伝するはずだ。権力闘争とはそういうものだ。そういった中で地方分権派の代議士を首相にするのだ。それが神戸出身であれば神戸にメリットをもたらすことが出来る。」

「それって利益誘導型の政治じゃないですか。」

「もちろんそうだ。権力闘争に勝利したものが得をするのは当然だ。きれい事じゃないんだ。相手を打ちのめして相手の持っている利権を奪い取るのだから。」

「なるほど。それでいつも話に出てくるお嬢さんはどうしたのですか?」

「俺は一人娘を東京の大学に進学させることにした。そして関西に帰ってくるなと命令した。急には東京一極集中の流れを変えられないと思っているからだ。娘が高校を卒業する時、娘の同級生の親は『どうして一人娘を東京にやるのですか?』と驚く親も多かった。そういった親の子供は地元の大学に進学した。ところが卒業すると東京に勤める子供が多いのだ。大会社の募集は東京しかないのだ。結局、優秀な子供の多くは東京に就職し、親は子供の住居費の仕送りをするはめになる。そうやって地方の経済はますます細っていくわけだ。」

「何だか寂しい話ですね。芦屋ってとても豊かなところなのに。このままではだんだんさびれていくと考えているのですね。」

「いや芦屋がさびれていくとは思っていない。俺と同級生の映画監督が芦屋に住んでいるが、住むのは芦屋で仕事は東京だと言っている。芦屋には今でも金持ちが多い。京都や大阪、神戸はじつに奥の深い町だ。だから関西がダメになることはない。それに関西圏にはまだ人が流入しているし、東京へは通勤圏だ。通勤電車のように10分おきに新幹線が出ている。だから心配していない。でもそれ以外の地域は危険だ。北海道、四国、九州から東京への日帰りは難しい。地政学的に見て、今の状況では東京から西は神戸、東は仙台までが生き延びられる範囲だろう。地方に住む人は自分たちが生き残るためには戦わなくてはならない。大阪府の橋下知事のような人物が沢山出てくれば、意外と地方分権も早いのではないかと思う。」

ピザ老人の話を聞いた後、私はピザを口の中に入れた。トッピングの玉ねぎは釜の中で甘さを増し、アンチョビの塩味と絶妙なハーモニーをかもし出している。シャリシャリした玉ねぎが溶けたチーズと絡まり合い、不思議な噛み心地を与えてくれる。ピザをほお張りながら私は自分が変化に富んだ面白い時代を生きているのだと感じた。

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