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香杏舎ノート

第70回「黒焼き」

「イモリを黒焼きにして飲んだ」そんな話を聞いたことがあるかもしれない。イモリを焼いたものが薬になるのだろうか。そもそも黒焼きって何のことなのだろう。西洋医学しか知らない頃の私は、黒焼きとはイモリを直接火で焼くのだろうと思っていた。イモリを焼いたものは、つまり肉の焦げた物だから薬としての効果があるとは思えない。黒焼きなど単なる迷信だと思っていた。

伯州散

私に漢方を教えてくれた先生の診療所に見学にいっていた時、薬品棚の奥から先生が黒い粉の入った容器を取り出してきた。

「これはいったい何ですか。」

「出雲の民間薬で伯州散という薬だ。金創(刀で切られた傷)に大変よく効く薬。別名、外科倒しともいう。外科倒しとは、外科の医者が暇になるほどよく効くという意味だ。」

「ずいぶん黒い色をしていますね。」

「これがいわゆる黒焼きだ。モグラ、反鼻(まむし)、それに津蟹を黒焼きにしたものだ。」

「モグラやマムシをですか。灰にして効果があるのですか。」

「黒焼きといっても直接火にかけて燃やしてしまうわけではない。木炭を作るときのように蒸し焼きにする。しかも元の成分が残る程度に蒸し焼きにするのだ。やり過ぎてはいけない。こんな物と思うかも知れないが、とてもよく効くのだ」
と師匠は言う。

「イモリも黒焼きにするのですか。」

「それは迷信だ。イモリを怪しげな人達が精力剤として売ったから、黒焼きの信用が落ちてしまったのだ。もっとも昔はいろんな黒焼きが作られていたんだが・・・。」

師匠の話によると動物のみならず植物も黒焼きにして使うことがあるという。たとえば大黄という植物、便を出す作用と炎症を抑える作用があるが、黒焼きにすると性質が変化して便を出す作用はなくなり、炎症を抑える作用だけになるという。黒焼きは想像以上に奥深いものらしい。

黒焼きに関する資料は少ない。いろいろ調べて[黒焼きの研究]という本の復刻版があるのを見つけ読んでみた。古来、様々な物が黒焼きにされてきた。猿の頭を姿焼きにして頭痛の薬として使ったりしている。一番珍重されたのは人間の頭蓋骨の黒焼きだ。黒焼きは姿をとどめていないと何を黒焼きにしたかが分からないので、壊れないように上手に焼かなければいけないという。

本当に黒焼きは効くのだろうか。伯州散を使う日はすぐにやってきた。入院中の患者さんで床ずれのひどい人がいた。尻に骨まで見える深い傷がある。看護婦さんが患者さんの体位変換をして床ずれを防止するのだが、栄養状態が悪いので傷は広がるばかりだ。この患者さんの傷口に伯州散をふりかけ、同時に伯州散を飲んでもらった。すると肉芽がむくむくと盛り上がってきて急に傷口が小さくなった。さすが外科倒しと言うだけのことはある。他の患者さんにも使ってみたが確かによく効く。だが残念ながら、なぜ伯州散が効くのかは謎だ。謎は謎として、これだけ効けばありがたい。

黒焼きについて調べてみると、おもしろいことに西洋医学の世界でも炭を薬として使うことがある。食用活性炭と呼ばれるもので、ちゃんとした保険薬だ。冷蔵庫などに入れて匂いを取る活性炭と同じだ。食中毒になって腐敗物質が腸に溜まった時、活性炭を飲むことでこの腐敗物質を吸着して体の外に出すのに用いられる。この食用活性炭は黒焼きと同じ炭だ。ただし一般の黒焼きがその成分の薬効を期待するのに対して活性炭は炭の吸着作用を利用しているという違いはある。そういう違いはあるにしても西洋医学でも黒焼きが使われていることが面白い。

手に入らない黒焼き

よく効く伯州散なのだが、最近は手に入れるのが困難になってきた。昔はどこにでもいたモグラ、マムシ、津蟹は数が減って手に入れるのが難しい。おまけに黒焼きをするのは大変な重労働だ。暑い中で寝ずに火の番をしなければならない。おまけに動物を黒焼きにするときは臭いが強烈だ。そんなわけで日本で黒焼きを作る職人さんはいなくなってしまった。

伝統文化を守る

こんな事情から伯州散も使えなくなってきた。伯州散のみならず昔から使われてきた薬が少しずつ使えなくなってきている。製造許可や販売許可が出ない場合もあるらしい。伝統の技術が失われ、その効果さえ忘れられてしまう。伯州散の効果を科学的に調べてみれば面白い結果が得られるかもしれないのに残念だ。伝統芸能を守るように漢方の伝統技術も守っていきたいと思う。

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