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夢の中の老人

第1話「恐怖心から学ぶ」

「人生で成功したければ人の体質を知ることだ」と老人は口を開いた。「世間の人は学歴や資格が成功するために大切だと思っている。もちろんそれも必要だ。だが一番大切なのは体質を知ることだ。人はそれぞれ独特の体質を持っている。人を観察し、自分の本能で人の体質、そこには性格も含まれるのだが、それを捉えることができるようになると、人生で成功することができる。」

「体質ですか?体質を知るだけで人生を成功に導くことができるのですか?」

私は老人と並んで武庫川の土手に座って川を見つめていた。川は昨夜の雨で水カサが増し、速い流れとなって目の前を通り過ぎていく。夏の日差しが水面で反射しキラキラ輝いていた。それを見つめながら、老人は私の質問には答えず話を続けた。

d01_1「この川の向こうは大阪だ。全国で一番ひったくりが多い街だ。被害者はどんな人が多いか知っているか?」

「お年寄りでしょ?」

「被害者の9割以上が女だ。犯罪者は人の体質をよく研究している。女の腕力は男の半分しかない。男は70歳になっても女よりも腕力が強い。男が女を狙えば反撃を受ける可能性は極めて低い。もちろん男だってひったくりに合うことがある。
たとえば銀行から金を下ろして出てきた時だ。だが、そんな特殊な状況でないかぎり被害に合う可能性はほとんどない。犯罪者は被害者から反撃を受けてケガをしたり、警察に捕まるのを恐れている。野生動物と一緒だ。ライオンは弱った動物や年老いた動物を襲う。獲物を捕らえやすく自分がケガをしない獲物を狙うのだ。」

「筋力の弱い女性が狙われるのですね。」

「そういうことだ。女性は大切な物を持って歩くときにはリュックに入れたり、ポシェットを斜めがけをしたりする必要がある。もちろんそれでも犯罪に合う危険はある。だが犯罪者のほうも被害者にケガを負わせてまでひったくりをしたくない。万が一捕まったときに、強盗罪だけでなく傷害罪も加わるからだ。 犯罪者は社長婦人だからといって気を使ってくれることはないし、警察官の奥さんだから犯行を見合わせることもない。体質を獲物の判断にしている。もちろん身なりがいいことも判断材料にはなる。だが基本は体質だ。面白いことに犯罪者は解剖も研究している。」

「解剖ですか?」

「たとえば人を刺すとき、何処を刺せば安全か知っている。昔、俺はひったくりにあった。俺が反撃すると、犯人は持っていたナイフで太ももを刺して逃げた。なぜ太ももなのか分るか?腕は刺しにくいだろう。太ももに比べると細いし動くからだ。だから太ももの、しかも外側を刺したのだ。太ももの内側は大腿動脈が走っている。そこを刺すと血が噴き出して死んでしまう。外側なら安全だ。もちろん間違っても腹や胸ではない」こう言うと、老人は履いている半パンツを少しめくり上げた。太ももの外側に3センチほどの傷跡がある。」

「実際に傷口を見ると怖いですね。」

「もう昔のことだ。君が思っているより人は刃物に弱い。わずか刃渡り15センチのナイフでも簡単に人を殺せる。人の体は血の入った氷嚢のような物だ。ナイフで刺すと血が噴き出してくる。腕や足を刺されたら、刺された場所より心臓に近いところをベルトか何かで締め上げて血を止めることができる。だが腹や胸を刺されたら血を止める方法がない。傷口を手で押さえても血があふれてくる。血を止めるには手術が必要だ。輸血も要る。輸血するには血管に針を刺す必要があるだろう。ところがナイフで刺されてショックを起こすと血圧が下がり血管のふくらみが無くなる。そうなると血管に針を入れるのが難しい。そんなことをしているうちに失血死してしまう。解剖を知らないと強盗傷害から強盗殺人になる。」

「犯罪者はそこまで人を観察して犯行に及んでいるのですね。解剖学まで研究しているとは思いませんでした。」

「犯罪もコストパフォーマンスということだ。誰にでも体質は重要だ。犯罪者でさえ人の体質を研究しているのに、一般の人は体質に無関心すぎる。体質を知り、自分の本能を鍛えなければだめだ。特に今の人たちは危険を察知する能力が麻痺している。本来、人には危険を察知する動物的本能が備わっているはずだ。だが、日本は治安のいい状態が長く続いてきから無用心になった。若い女が夜中に一人で歩いていたりする。ああいうのを見ると本当に動物的本能が鈍ったのだと思う。 注意すればひったくりに合わなくても済む。犯人は必ず下見をする。いきなり犯行に及ぶことはない。それはライオンが獲物を狙う時と同じだ。二人乗りのバイクが妙にゆっくりしたスピードで走っている、そういう光景を見かけたら狙われていると思わなければならない。」

「何故そんなに犯罪に詳しいのですか?」

「昔、犯罪の多い所に住んでいたからだ。家の近くには日本最大のヤクザの本部があり、ダボシャツを着たヤクザがウロウロしていた。ヤクザは一般のシロウトには手を出さない。シロウトを脅しても大した金にならないからだ。だからといって安全なわけでもない。奴らはハッタリで生きている。[ヤクザは怖いものだ]というハッタリだ。このハッタリが無くなれば飯が食っていけない。だからヤクザの顔をつぶしてはいけない。面子(めんつ)をつぶされたと思うと、金にならなくても襲ってくる。そんなヤクザに混じってチンピラもたくさんいた。こいつらは危険だ。シロウトを襲う。俺は何度も殴られて金を取られた。チンピラには卑劣な奴が多かったな。」

「ずいぶん治安の悪いところだったのですね。」

「まあ、そんな所に住んでいたおかげで、危険を感じる能力が高まった。本来、人間が動物的本能として持っている危険察知能力だ。この年になってもその能力は衰えない。先日、新神戸駅から新幹線に乗ったのだが、ヤクザが大勢いた。新神戸駅ではよくヤクザに出会う。」

「ヤクザですか?最近、ヤクザをあまり見かけないですが?」

「暴対法の影響でヤクザがヤクザらしい格好をしなくなったからだ。ヤクザと分かると暴力団体と認定され、刑罰が重くなる。だから今は目立たない服装をしている。

俺がプラットフォームに行くと、階段を上がった所に子分が一人立っていて不審者が上がってこないか見張っていた。そこから少し先のベンチに親分が座っていた。ベンチの両端にはさりげなく2人の子分が立って見張っている。列車が来ると、親分の前後を子分が固めてグリーン車に乗り込んだ。先に乗った親分と子分は車両には入らず昇降口で待機し、後から乗った子分が車両内を点検してから席に着いた。別の車両にはバッグを持ったヤクザが乗ったから、多分そいつがチャカ(拳銃)を持っているのだろう。一般の人にはそんな連係動作は見えないだろうな。」

「ドラマみたいなことが本当にあるのですね。流れ弾が飛んできそうですね。ヤクザと間違えて殺されたなんてことも新聞で読んだことがありますから。」

「子供のときに鍛えられたこの危険察知能力のおかげで、いろんな場面でとても助けられた。株価暴落の時、取引先が倒産した時など、本当に役に立った。危険な状況が俺の本能を目覚めさせてくれたのだ。この危険察知能力は人の体質を観察するにもとても大切なものだ。危険な人物だと思えば詳しく観察するだろう。」

「確かに。私も危険を察知する能力が欲しいですね。能力を鍛えることはできるのですか?」

「よく修羅場を潜るというじゃないか。そういう体験をすると根性がすわって能力も高まる。ところで君は自営業か?」

「いいえ、サラリーマンです。」

「サラリーマンが危険察知能力を身につけるのは難しいな。自営業者は景気の動向で損をしたり、取引業者の倒産で連鎖倒産に追い込まれそうになったりと、意外に思うかもしれないが修羅場を生きている。だから自然に能力がつく。サラリーマンでも、まあ少しぐらいは能力を鍛えることができるだろう。俺は娘に危険察知能力をつけさせることができたからな。」

「どうしたのですか?」

「簡単なことだ。ただ驚かしただけだ。娘が一人でいる時、たとえば絵本を読んでいるのを見つけると、静かに近づいてワッーと声をかける。すると娘はびっくりして大声を上げて泣き始める。こんな訓練を何度かすると、少しの物音でも気配を感じるようになり、すぐに後ろを振り返るようになった。子供は覚えるのが早い。小さな物音にも反応するようになったが、もちろんそれだけでは足りない。何かもっといい方法はないかと悩んでいた時、知り合いの空手の師範から面白い話を聞いた。

『茶道では畳の縁を踏んではいけないという作法がある。なぜ作法が出来たのかについては諸説がある。たとえば畳の縁の布には家紋が入っているから踏むと不敬になるとか、畳が傷むという説もある。だが本当の由来は腕の立つ武士を討ち取るために畳の縁に針を埋め込んだからだ。針を踏みつけた武士に一瞬の隙ができ、そこを襲われた。だからそれ以降、武士のたしなみとして畳の縁を踏まなくなり、それが作法になった。茶道の作法もこの流れをくむものだ。』そう教えてくれた。これを聞いた時、これは使えると思った。」

「お嬢ちゃんに針を踏ませたのですか?」

「針を踏むと体重がかかるから危険だ。そこで椅子の上に画鋲をおいてみた。実際に娘が座った時は面白かった。ばね仕掛けの人形のように飛び上がった。」

「悪い親父さんですね。嫌われているのでしょうね。」

「そんなことはない。でも画鋲が尻に刺さった時はすいぶん怒っていたよ。」

「虐待じゃないですか。」

「教育は子供が小さい時にするほうがいい。大きくなると筋力がついてきて反撃されるからな。
ある日、東急ハンズで面白いものを見つけた。クラッカーだ。紐を引くと大きな音がして中から紙のテープが飛び出すのがあるだろう。あれを買ってきた。クラッカーの円錐形の部分をテープで壁に固定し、紐の部分は紐を足して輪を作り、ドアの取っ手に引っ掛けておいた。娘がドアを開けると、クラッカーの紐が引っ張れてパーンと大きな音がする。この仕掛けをドアだけでなく、いろんな所に仕掛けた。一番傑作だったのは勉強机だ。娘が引き出しを引くとパーンと音がする。これは大成功だった。

そんなことを繰り返しているうちに、娘はどんな細工にも引っかからなくなった。そこでどうしてなのか娘に聞いてみた。すると『お父さんが仕掛けをした時は様子で分かる』と言う。『目の動きが落ち着かなくなり、動作が不自然になる。』つまり、俺を観察することで仕掛けがあるのが分かるようになった。親父を動物として観察することで狙われていることが分かるようになったわけだ。」

「なるほど。面白い教育ですね。確かに犯罪防止にはなるかもしれませんが、普段の生活では役に立たないでしょ。」

「そんなことはない。勉強にもずいぶん役に立った。娘はお父さんが人を観察する能力を高めてくれたおかげでいい成績がとれたと感謝している。」

「どうしてですか?」

「先生を動物として観察できるようになったからだ。娘から聞いた話だが、算数の先生は試験問題を出すとき意地悪な問題を出す。わざとヤマをはずす。本当に試験に出す問題を授業で教えるときは、小鼻が膨らんで口角が微妙につりあがる。娘は先生の表情を観察してどんな問題が出るか分かってきたという。
国語の先生は素直に問題を出してくれる。だから大切だと言われた所を普通にやればよい。先生にもいろんな性格の人がいる。そういう先生の特徴を捉えてうまく対応していくことができるようになった。学校にはいろんな体質をもった先生という動物が集まっている。動物の集団の中で暮らすには自分のことばかり考えずに、他の動物の癖や性格を観察することが重要だ。
学校では勉強だけをしていれば良いと思っている人が多い。とんでもない間違いだ。学校にはさまざまな性格の人がいて、その性格は生まれつきの体質からきている。それをじっくりと観察することだ。勉強を教える側も教わる側も個性をもった動物だということを忘れてはいけない。些細なことで先生に目をつけられる子供もいるし、生徒から仲間はずれにされる子供もいる。勉強に集中できる環境を作るためには、周りにいる人を動物として観察しなければならない。会社でもどこでも人が集まっているところは同じだろう。」

「確かに人が集まる所には様々な葛藤が生まれますね。私の会社でも変わった人がいます。言われてみれば仕事をするより、そういう人との関わりのほうにエネルギーを取られますね。」

老人は話を中断し、中州のほうを指差した。中州に雀が群れている。

「雀が人になつかないのを知っているだろう。だから愛玩用として文鳥やカナリアを飼っている人はいても雀を飼っている人はいない。群れている雀の向こうで羽を広げて乾かしているのは川鵜だ。川鵜は人に慣れる。鵜飼には海鵜を使うことが多いのだが、川鵜だって鵜飼に使える。鵜匠は野生の成鳥をつかまえてきて鵜飼が出来るように飼育する。鵜は首に縄を巻かれて取った魚を毎回吐かされる、そんなことをされても人間に馴れる。鳥にもいろんな性格の鳥がいるのが分かるだろ。」

「確かにそうですね。オシドリは一生決まったオスとメスで過ごすからオシドリ夫婦というのですね。」

「そうだ。動物の性格は面白い。君は知らないだろうが、文明の発展にも動物の性格が大きな影響を与えたのだ。」

「本当ですか?」

「人類の祖先は百万年以上前にアフリカ大陸で誕生した。それがユーラシア大陸を通ってアメリカやオーストラリアなど他の地域に渡っていった。つまり人類の本籍地はアフリカだ。もし文明が発達するなら、もともと人類がいるアフリカが一番に発展するはずだ。だがそうではなかった。20世紀初頭までアフリカは石器時代にとどまっていた。18世紀にはアフリカの黒人は奴隷として売買されるまでに落ちぶれた。確か17世紀だったと思うが、バチカンでは黒人が人間かどうかの宗教的議論があったほどだ。それほど落ちぶれた理由は何だと思う?アフリカには性格のいい動物がいなかったからだ。」

「性格のいい動物ですか?動物にも性格のいい動物や悪い動物がいるのですか?性格のいい動物が文明を進歩させるのですか?」

「アフリカには牛と馬がいなかった。牛は農耕に使え、ミルクや肉を人間にくれる。馬は荷物を運び、人を乗せて早く走る。人力だけで農作をしたり物を運搬したりしているだけでは文明を発展させるほど豊かにはならない。ユーラシア大陸では牛や馬を家畜として利用することで、食料の生産が飛躍的に上がり、豊かな文明を築くことができたわけだ。

考えてみると不思議だろう。体重が500キロもある動物が自分より小さな人間の命令を聞くのだから。気立てのいい動物に囲まれていたおかげで、ユーラシアに住む人たちは文明を発展させることができたのだ。

もちろんアフリカにも動物はたくさんいる。馬はいないが近い種類のシマウマがいる。だがコイツは人間の言うことを聞かない。成長するに従って意地悪になり、すぐに噛みつくようになる。まるで俺の嫁さんみたいな奴だ。ロックフェラーが無理矢理に調教して馬車を引かせたことがあるが、日常の作業にシマウマを使うことは不可能だ。

牛はいないが水牛ならいる。だが、こいつも気が荒い。ライオンにケガを負わせる猛獣だ。つまり家畜になる動物がいなかったから狩猟民族の状態から脱却できなかったのだ。人間も気立てのいい人に囲まれていると幸せな人生を送れるだろ。それと一緒だ。飲んだくれの亭主と一緒になったらそれこそ人生が台無しになってしまう。」

「たしかに言われてみれば、動物も個性豊かですね。」

「人間も個性豊かな動物だ。ただし動物よりタチが悪い。」

「どうしてですか?」

d01_2「シマウマと馬の違いは一目瞭然だ。川鵜と雀を間違える奴はいない。でも人間はいい奴も悪い奴も外見だけでは区別できない。おまけに言葉を使って嘘もつく。だから人の場合は、よくよく体質を観察することだ。俺は娘に危険察知能力を植えつけることで人という動物の中でうまく生きていく知恵をつけさせることができた。今の日本には雷親父も怖い先生もいなくなったから、日本人は人という動物をまったく恐なくなった。人に恐怖心を抱くというのは人を仔細に観察することにつながる。子供の時くらいはそういった怖い人物がいないと無防備で人を理解できない人間になってしまう。」

そういうと老人は腰を上げ暑い日差しの中を帰っていった。

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