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夢の中の老人

第20話「人疲れ」

東京の地下鉄で隣の人と肩を寄せ合うように座っていた。隣の人の息遣いが肩を通して伝わってくる。
大学院生の時、実験動物のマウスをケージに入れて飼っていた。5匹以上入れるとマウスはストレスから共食いを始めてしまう、そんなことを思い出した。人だって共食はしないけれどストレスを感じる。
そう思った時、隣の人の肩が揺れ出した。笑っている。横を見るとそれはいつもの老人だった。

「体の周りには防空識別域があってその中に他人が入ってくると警報が鳴らされる。知らない人間が自分の近くに入ってきて危害を加えられないための本能だ。
害を加えられないと分かっていても人に侵入されるだけで疲労する。人混みに出かけて疲れたときは防空域に何度も人が入ってきたからだ。いわゆる人疲れと言うやつだ。そんな時は一人になるのがいい。防空域を修理するのに周りに人がいては邪魔になる。」

「なるほど。一人になりたい時ってありますよね。そんな時は防空域が傷んでいるのですね。確かに東京では知らない人と肩を合わせていなければならない状況も多いですから疲れてしまいます。」

「人が防空域の周りをうろうろしていると落ち着かない。誰もいない所でゆっくりしていると気が充実して治ってくる。早く治すためには、自然の中にいるのが一番いい。誰もいない山道を一人で歩く。落ち葉を踏みしめる音だけが聞こえてくる、そんなことが薬になる。」

「分かります。」

「ところが一人になるのはなかなか難しい。俺は防空域が傷つきやすいタイプで、どうすれば一人になれるか研究してきた。無論、飛行機や電車に乗って旅に出れば一人になれる。だが時間がかかる。どうしたら簡単に自然の中に行けるのだろう?
ある時、自宅の近くを流れる大きな川の河川敷に出かけた。真冬の朝、人もいない時間だ。服をたくさん着込んでベンチに横たわった。今にも雪が降ってきそうな灰色の空を見上げて楽しんでいた。元気になりかけた頃、散歩をしているおばさんが近づいてきて、『こんなところで寝ていたら風邪をひくよ』と声をかけた。」

「構われたくないときに、声をかけられたのですね。」

月明かりが空の雲を照らし出す

真夜中とは思えないほど明るい月明かりが空の雲を照らし出す。

「どっぷりと一人の時間を楽しむのは難しい。そこで思いついたのが真夜中のドライブだ。
家から車で1時間も走れば田園地帯に出る。車はほとんど走っていないし、人影を見かけることもない。闇が優しく自分を包んでくれる。
満月の時はゴージャスな気分になる。月が風景を照らし出してライトをつけないでも走ることができる。」

「都会に住んでいると月の光を感じることはまずないですね。どこからか光が来ていますから。」

「写真は真夜中の1時頃の写真だ。空には月明かりに浮かぶ雲が見える。車の屋根を開けて風の音を聞きながら車を走らせると元気になる。これが俺にとって人疲れを治す一番の方法だ。」

「もっと簡単な方法はないのですか?」

「降りたことのない駅で降りて記憶を失った人のように街角をさまようのも一つの手だ。」

夜のドライブ「でも一人だと寂しくないですか?」

「細胞培養をしている研究者から聞いた話だが、細胞を一つだけ培養液に入れるとすぐに死んでしまう。2つ以上入れる必要があるらしい。
これと同じで人も一人では生きていけない。俺は子供のときから都会の真ん中で育ってきた。デパートまで歩いて10分かからない場所だ。だから一人になりたいといっても田舎に住む気にはならない。」

「わがままですね。」

「防空域は敵から身を守るためのものだ。知らない人や嫌いな人が入ってくると傷つくが、好きな人や信頼している人が入ってきても傷まない。むしろ気の合う人がいれば精神的に安らぐし、健康にもなる。恋人だったらできるだけ近くに来てほしいだろ。」

「安らぐのは分かりますが、健康になるのですか?」

「ある時、CNNニュースを見ているとファリード・ザカリアが、outliersという本を書いたマルコム グラッドウエルと対談していた。
Outliersとは[異常値]とか[飛び抜けた事]といった意味だが、面白そうなので、原書で購入して読んだ。その序説に面白いことが書かれていた。

イタリアのサルディーニア島の住民は長生きなことで有名だ。何故長生きなのか遺伝子や食べ物などいろんな方面から調査しても分からない。唯一人々の濃厚な人間関係に原因があると結論づけた。島民は町のあちこちで立ち話をし、家を訪ね、そして会話する。老人は孤独ではない。島民は老人を尊敬していてことある毎に家を訪ねる。そういった人からの癒しが長寿をもたらしていると結論づけたのだ。連中はダイエットをするわけでもないし、粗食にたえているわけでもない。理由はそれしかないというのだ。」

「なるほど。細胞が一つでは生きていけないというのと同じように、人も気の合う人との交流で元気なるのですね。あなたも気の合う人とのコミュニケーションで元気になればいいじゃないですか?」

「それが簡単ではない。俺は変わり者で人と馴染めない性格だ。だが俺以外の人も困っているはずだ。今は孤独な時代だ。地縁、血縁が弱くなっているからだ。東京には地域に属する住民がいない。江戸っ子はいるがそれよりはるかに多くの人が地方から流入している。だから地縁でのコミュニケーションが成り立たない。血縁だって東京では単身赴任が多い。地縁も血縁もない、人のつながりの希薄な場所だ。

地方の大都市でも状況は似たようなものだ。マンションに住んでいても隣の住人がどんな人か知っている場合はあまりない。近くに親戚が住んでいても定期的に会っている人も少ないはずだ。

もともとイタリア人は母親を中心とする母系家族で、いいオッサンになっても母親と週一回以上電話する。親戚や兄弟が集まって昼食を共にすることも多い。だが日本では家族揃っての夕食さえも少ない。」

「確かに。」

「その他の繋がりとして学校縁や職場の同僚という職縁というのもある。だが同じ学校を出ても暮らしぶりが大きく変わってくることが多い。だから楽しく付き合っていくのが難しい時代になった。」

「僕も親しい友人は少ないですね。」

須磨海岸

写真で見ると須磨駅は海の家みたいに浜辺の奥に建っている。

「人が親しくなるためには置かれた環境が似ていないとだめだ。とくに金銭感覚が大事かもしれない。

俺は人に疲れた時は自然の中に行く。自然には人を癒す気が存在するからその中に浸り、寂しくなった時は自分を暖かく包んでくれる人の気を利用する。その両方を上手く取り入れて楽しく過ごすのが人生のコツかもしれない。」

私は仕事で神戸の三宮に来ていた。人疲れして急に海が見たくなった。潮騒の音が聞きたくなった。三宮の駅から電車に乗り、わずか10分ほどで須磨駅についた。駅の階段を下りたところが砂浜だった。

須磨海岸真冬の浜辺は人影もまばらだ。
海にはカモメが飛び、沖合を大きなタンカーが行きかう。空路になっているのか、時々飛行機が低く飛んでくる。
繁華街から10分ほどで行ける波打ち際があるのが不思議だった。
老人の言うように少しばかり工夫するだけで、都会の近くにある自然を満喫して元気になることができた。

 

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