香杏舎ノート

 

『 豊かさの中の不登校 』(シリーズ第86回)


現在、何らかの理由で学校に行っていない子供たち(不登校児)が10万人以上もいるという。どんな理由で学校にいかないのか、どうしてそんなに増えてきたのだろうか。

何年か前、私の診療所に初めて不登校の子供さんが受診した。高校2年生で関西でも有数の進学校の生徒だった。体の不調を訴え、学校を休みがちになり、そして次第に学校に行かなくなったという。
不登校は医学的な治療が必要な精神的な病気なのか、それとも慢性疲労症候群のような身体的病気なのか。まず子供さんの話を聞くことが大切だと思った。十分に時間をとる必要を感じたので、診療が終わってから子供さんに来てもらい、何度も話を聞いた。だが、いくら話を聞いても精神的な問題があるとは思えなかった。
身体的な不調についても詳しく調べてみたが異常はない。友人の精神科医に相談したが、「不登校は難しいですよ」と言うだけだっだ。
子供が学校へ行かないのは、ひょっとすると怠け心からではないか、[難関の進学校に入学するような子供は怠け心から不登校にはならない]という私の思い込みが間違っていたのかと思った。つまりそれ以外何の理由を私は見つけることが出来なかったのだ。

 体調不良が不登校のきっかけ

多くの不登校児が私の医院を受診するようになり、なおかつ不登校児が娘の同級生や親戚の子供にも見られるようになって、私にも不登校のことが分かってきた。

不登校児はまず体調不良から学校を休みはじめる。それは風邪引きであったり、頭痛であったりと本当の病気のことが多いのだが、休み始めるとだんだんと休みが長くなる。そのうち朝が起きれないから学校に行けないと言いだす。
しばらく休んで学校に行くと、なんとなく友達の目が気になる。さらに何週間も休んでいれば変な目で見られる。こう感じるようになると、もはや学校には行けなくなってしまう。(こういう状況になると、子供さんは学校が自分に合わないとか、友人関係がうまくいかないと言うようになる。)

不登校児の体調不良は風邪などから始まるのだが慢性に続く体調不良の原因は、運動不足、食べ過ぎによるものだ。家にいてもすることがなく、間食しながら夜更かしするので体調を崩してしまう。学校に通うことは、一定の時間に起き、一定のペースで体を動かすことになる。さらに学校では間食できないから食べ過ぎになることもない。
学校というペースメーカーをなくした子供は好きな時間に寝るから昼夜が逆転してしまい、さらに食べ過ぎから体調不良になってしまう。
我々も連休が続くと食べ過ぎや運動不足で調子が悪くなるから、そういった状態は容易に想像できると思う。
不登校児の親は勉強には口出しするが、体調を整えたり、体を鍛えたりすることに注意を払わない。つまり子供が間食や夜更かしをしても叱らないのだ。
勉強も大切だが、それ以上に大切なのは健康を維持することだ。休みの日でも一定の時間に起こし、間食をさせない躾けをする必要がある。学歴があっても休みがちな人を誰も雇いたいとは思わないし、学校へ行けないほど体調が整えられない子供にまともな就職ができるとも思えない。

 不良債券化する子供たち

こういった子供たちはきちんと挨拶ができなかったり、返事ができなかたりと、最低限のマナーさえ躾けられていないように思う。そして不登校児のいる家庭では親より子供のほうが権力をもっていて、親が気を使って暮らしているのをよく見かける。
子供は学校には行かないくせに親に食べさせてもらうのが当たり前と思っているから始末が悪い。学校にも行かず、まともな就職もせず、家に居て親の老後の資金を食い潰していく。

 苦学という言葉がなくなった

昔はお金がなくて満足な教育を受けられなかった人が多かった。私の祖父もお金がなくて尋常小学校しか出れなかった。だが苦学して弁護士になり、神戸市の弁護士会長も勤めた。国もそして国民も貧しかった時代、祖父のような苦学生は決してめずらしくなかった。
現在、小学校から高校まで生徒一人あたり年間約80万円の税金が使われている。こんな大金を国がくれるというのに自分から学校を辞めてしまうなど、貧しい時代に育った人には想像もできないことだろう。

 私の感想

学校教育というのは優れた教育システムだと思う。勉強だけでなく、運動の楽しさ、音楽を聞く喜び、絵を描いたりする面白さも教える。遠足や修学旅行にも連れていってくれる。感受性を磨き、様々なことを体験するのも教育だから、国はそれだけの金をかけて子供たちを教育してくれる。
景気が悪くなり、子供を家で遊ばせておく余裕がなくなってくれば、怠け心からの不登校児(深刻な家庭事情や身体事情で学校に行けない子供もいる。こういった子供を不登校児と呼ぶのは適当ではないと私は思う。)は急速に減少するだろうと私は想像している。
昔、職人の親方は「そんな行儀もできないようじゃ勤まんないよ」といって、行儀のわるい弟子を叱った。これは単に小言を言っているのではない。優れた技量をもっていても行儀が悪ければ就職が難しいよと言っているのだ。勉強の前に体力と最低限のマナーを身につける必要があると思うのだが、どうだろう。

香杏舎ヒガサクリニック
2003年  1月22日発刊分


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