香杏舎ノート

 

『 現代生活と健康 』(シリーズ第94回)


産業革命以降の社会変革はそれ以前に人類が営んできた生活様式を急速に変えた。ここ50年ほどの変化を振り返ってみても我々の生活は加速度を増して変化してきている。ただし、大きな変化は日々の生活の中で少しずつ変わってくるため、日常の小さな変化の中で我々は大きな変化を気づかずにすごしている。私は戦後の生まれだが、小さい時には冷蔵庫も洗濯機も電子レンジ、湯沸かしポットもなかった。風呂は薪で沸かしていたし、コタツは炭火だった。電化製品といったいわゆる文明の利器は確かに我々の生活を便利にしてくれた。だが健康に関しては良いとばかりは言えないようだ。

  睡眠時間はどう変化したか

江戸時代の人は何時間寝ていたのだろう。多分日が暮れてしまった後、ロウソクや行灯の火をともして夜更かしをしていたとは考えにくい。ロウソクや油は高価だったし、ラジオもないような状況では夜更かしする意味がない。蛍の光や窓の雪明かりで本を読んだというくらいだから、おおむね日が落ちれば寝ていたに違いない。夜の時間は日の長い夏で午後7時から朝4時過ぎの9時間、冬は6時から朝の6時ころまでの12時間だ。だから少なくとも9時間から11時間は寝ていたに違いない。最近の現代人は5〜6時間睡眠の人が多いから昔に比べ半分近くになっている。睡眠時間が減っても今のところ健康被害は出ていないように思えるし、平均寿命は昔に比べ、ずいぶんと長くなった。だが、そのうち睡眠時間の短いことが体にどんな影響を与えているかが次第にわかってくると思う。人類が誕生して以来、極端な短時間睡眠になってきたのは、ここ数十年のことで、平均寿命を含め影響が分かるにはもう少し時間がかかると思われるからだ。

ちなみにアメリカで110万人を対象とした調査によると、6〜7時間の睡眠の人が一番長生きで、次に8時間睡眠さらに5時間以下の人という順番になった。つまりこの結果からだけだと、ただ長く寝るほうがいいとは言い切れないという結果になっている。

  汗

昔、一般家庭には無論、電車、バス、自動車にも冷房がなかった。私が30年ほど前に乗っていた軽自動車には三角窓がついていて、暑いときはそれを開いて風を室内に入れる仕組みになっていた。またボンネットにも風を取り込むダクトがあり、蓋を開いて空気を室内、特に足元に誘導したものだ。だがそうやっても涼しいのは走っているときだけで、信号で止るたびに汗が吹きだした。だからいつも背中は汗でビショビショに濡れていた。家にも無論エアコンなどない。あるのは扇風機だけ。しかも1台しかないから独占することなどできない。勉強しているときはシャツの下を汗が流れていくのを感じた。

多分、今の私は昔の十分の一も汗をかいていないに違いない。別に汗をかかなくてもいいじゃないかと思うかもしれないが、そうではない。汗は体から老廃物を外に出す役割をもっている。老廃物は尿や便からも排泄されるが、有害な重金属カドミニウム、鉛やダイオキシンなどは汗から効率よく排泄されることが知られている。つまり汗腺の機能は単に体温をさげるばかりでなく、一つの大事な排泄器官でもあるのだ。こういった排泄器官は使わないと機能が衰え、体に溜まった老廃物も出ていかなくなってしまう。エアコンが発達したのもここ数十年のことで、今後、汗が少ないことと病気との関連が明らかになるかもしれない。

  運動量と食事

冷蔵庫、電子レンジ、電気釜、電気ポット、インスタント食品のなかった時代、御飯を食べるのは大変だった。だから決まった時間に家で御飯を食べ損ねると次の食事まで空腹を我慢しなければなかった。コンビニも自動販売機もファーストフードもないのだから空腹を満たすのも簡単ではなかった。食べるということに手間のかかる時代は金銭の問題を別にしても手間が食べ過ぎを防いでくれた。

乗り物のない時代、人は1日に2万7千歩も歩いていた。だが車通勤するサラリーマンは3千歩、電車通勤のサラリーマンで7〜8千歩と極端に歩かなくなった。食べ過ぎと運動不足による病気はいまさら述べるまでもないが、こういった問題は先進国だけのことで、発展途上国は今でも餓死する人が多いことにも留意しておかねばならない。

現在の便利すぎ、そして豊かすぎる日本で健康に過ごすには適当に汗をかき、体を動かし、十分な睡眠を取る、さらに食事と食事の間は胃腸を空にして内臓を休ませる、そういったことに注意を払えばよいのだろう。できるだけ昔のような自然な生活をしていきたい。

  私の感想

ここ数十年で子供の出生率が急速に低下してきた。このため昔の女性の生理は一生涯で150回くらいだったのが現在では460回と3倍にも増えている。妊娠中や授乳中は生理が止るのだが、女性が子供を産む回数が減ったために生理が多くなってきたのだ。子宮内膜症といった病気はこういった変化にともなって増えてきた。社会の変化はさまざまなところで我々の健康に影響をおよぼしてくる。

香杏舎ヒガサクリニック
2003年  9月23日発刊分


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