香杏舎ノート

 

『 ガス腹の治療 』(シリーズ第120回)


この香杏舎ノートも今回で丸10年を迎えることとなりました。月1回、一度も欠くことなく10年間、120回発行して来られたのは、みなさんのおかげと感謝しております。香杏舎ノートに種本はなく、すべて臨床の経験や患者さんの話から漢方の症状を考え、まとめてまいりました。おかげさまで好評を得て、ホームページを見た出版社から改めて本を出版してはとのお声もかけていただいております。そのうちに漢方医学全体が見渡せるような内容の本を出したいと考えております。

さて、以前にガス腹という話を書きました。お腹にガスが溜まって苦しく、胃がつかえ、食欲が無く、疲れやすいという症状です。漢方の気滞と呼ばれる症状に近いものです。そういう症状を訴える人は多いのに、病気を知らない人もいるのではないかと考えて書きました。すると、ガス腹で困っている人も多いとみえて、よく相談を受けます。そこで今回、その治療法について説明したいと思います。

●  お腹のガスは何処から来るの

お腹のガスはどこから来るのでしょう。一つは空気を飲み込むことによる呑気症もう1つはお腹の中での異常発酵です。サツマイモを食べてオナラが多くなったとの話を聞いたことがあると思います。腸内細菌による異常発酵がガスを作ります。この二つが主なガスの発生源なのですが、お腹にガスが溜まっても、普段はオナラやゲップでガスは排泄されてお腹には溜まりません。では何故ガスが溜まるようになるのでしょう。

●  ガス腹の原因

原因の一つは運動不足です。運動をしないと、腸の蠕動運動も弱くなり、ガスが排泄されにくくなります。日頃、運動しない人が、山に登ったりすると、歩きながらオナラが出ます。運動で腸が刺激され、蠕動運動が活発になるためです。階段を上りながらブリブリ、オナラが出て困った経験があるかもしれません。体を上下に揺らす運動やお腹を左右に捻る運動は、ガスを排泄させるのに効果的です。つまり、腸を揺らすような運動はガスの排泄を助けてくれます。ただし、注意しないといけないのは、平らな道を長く歩いても腸は振動しないので、ガスの排泄効果は高まらないことです。

ガス腹の2番目の原因は冷えです。布団に入り、体が温もるとオナラが出ます。冷えていると、腸の蠕動運度が落ちてしまいます。ですから冷え性の人はガス腹になりやすいのです。普通の人でも気候の変わる秋口にはガスが溜まります。そういうときは体の温もるような運動をしたり、風呂でゆっくり温めてやると、ガスが排泄されて気分がよくなります。

3番目のガス腹の原因は背中の凝りです。マッサージや整体の治療にあたっている人は誰でも経験することなのですが、患者さんを治療していると、急にオナラのような便臭がしてくることがあります。これは患者さんが密かにオナラをしたからではありません。治療により腸の蠕動運動が高まり、腸からガスが血液中に吸収されると、体臭として毛穴から臭ってくるからです。そういう人はめったにいませんが、背中の凝りがひどく、過食気味の人にそういう人を見かけます。多分、背骨から出ている自律神経が刺激を受けて腸の蠕動運動が高まるからだと思います。背中から腰にかけて凝りのひどい人もガス腹になるのです。

今までの話をまとめてみましょう。運動嫌いで冷え性、背中の凝りがひどく、過食気味の人がガス腹になるというわけです。現在、ガス腹で悩んでいる人がこれほど増えたのは、こういう状態の人が増えたからに他なりません。確かに現代人は運動不足で、過食気味、おまけにデスクワークで背中が凝っています。ガス腹の治療は言うなれば養生です。食べ過ぎず、汗をかくような運動をしておれば、困るほどのガス腹になることはありません。

●  既存の漢方薬はあまり効かない

漢方薬にはお腹のガスを出す薬が沢山あります。でも一般的な処方はあまり効きません。なぜなら、こんなに過食で、運動不足な時代に作られた処方ではないからです。漢方薬もそういう時代背景を無視して使ってもあまり効かないのです。ですからもっと強力な処方を組む必要があるわけです。ガス腹の人に一番即効性のあるのは整体だと思います。ともかく腸を刺激して動き易くしてやれば、苦しかったガス腹は一時的であれ解消します。それから体質改善をしていけばいいのです。

●  私の経験

「冬、布団に入って体が温もってオナラが出るのは老化だよ」と漢方の師匠が教えてくれました。年を取れば冷え性にもなるし、腸の動きも悪くなってガスが溜まり易くなる。だから布団に入ってオナラが出るようになれば、次第に老化してきたのだと思えばいい。でも今は女性の人で、ガス腹の人は多分こんな症状がよく出るのだろうと思う。病態も昔とは違ってきています。

香杏舎ヒガサクリニック
2005年11月21日発刊分


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