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香杏舎ノート

第95回「癇癪(かんしゃく)」

「ワシの爪切りを何処に置いた。引き出しに入っていないじゃないか」とお父さんが怒りだした。いつもの癇癪がはじまったと子供達は逃げ出す。「お父さん、つまらないことに腹を立てないで」とお母さんが言っても、「つまらんことじゃないんだ。いつも言っているだろう。使ったら元へもどすように」とますます怒る。癇癪は簡単にはおさまりそうにない。
誰でも自分の思うようにいかないことがあると腹を立てる。だが癇癪持ちの人は些細なことに激しく怒るし、怒りが収まるのに時間がかかる。

癇癪持ちの人はセッカチだ。お母さんの食事の用意が遅かったりするとイライラして、動物園のライオンのように、部屋の中を行ったり来たりする。
なぜセッカチなのかというと、いつも頭の中で先の事を考えているからだ。「まず夕飯を食べ、風呂に入ってからゆっくりナイター中継を見よう。食事が遅いと放送が始まってしまうじゃないか。だから今日は早めに食事を用意してくれといったのに」そんな先の先のことまで計画を立てている。

現実の世界の出来事は頭の中で考えるようにはスムーズには運ばない。想像より現実はいつも遅れてしまう。この当り前のことを認めることが出来ない。思いどうりに事が運ばないと怒りが爆発する。

油に火を注ぐ

癇癪持ちの周囲にいる人は大変だ。いつどんな事で怒りだすか分からない。あるときは爪切りでカンカンに怒ったのに、次の時は知らん顔、気まぐれでどうしたらいいか分からない。
そんな癇癪持ちに困り果てている人も多い。そこで、癇癪持ちの扱いを教えよう。まず癇癪をおこしたら、謝るに限る。不用意な発言は油に火をそそぐ結果になる。一定の時間が過ぎないと何をしても怒りは収まらないからだ。

泣き寝入りする子供がいる。激しく泣き、暴れたかと思うと、いつの間にか寝てしまう。こんな子供が大きくなったのがこの体質の人だ。むずかる子供をあやしたところで疲れるばかり、腹を立てて疲れるのを待つしかない。泣き寝入りする子供は眠たいのだが、体に溜まったエネルギーをはき出さないと眠りにつけない。泣いてエネルギーを消費することで、はじめて落ち着いて寝ることが出来る。

怒ることはエネルギーを消耗する。よく「腹を立てる元気もないよ」などというが、体が弱ると腹を立てなくなる。菜食主義にすると腹を立てなくなるというが本当のことだ。体に溜まった余分なカロリーがエネルギーとなって怒りを大きくする。だから疲れきるまで待たないと怒りは収まらない。

退屈しているときに腹を立てるのは体にエネルギーが溜まるからだ。もし本人が忙しくしているなら腹を立てることは少ない。先のことを考えながら頭はフルに活動している。だから他人のことまで気がいかない。暇なときは他人の動作が気になる。だから癇癪持ちの人が暇にしていたら、仕事を頼むなどして退屈させないようにするのも腹を立てさせない一つの方法だ。

怒りボケ

癇癪持ちはいつも先のことをイライラしながら考えているせいか頭が疲れる。だから歳をとると早くからボケる。これを怒りボケという。

あるとき典型的な患者さんがやって来た。80歳前の男性、奥さんに連れられて診察を受けに来た。診察をしている最中も「なんだ、馬鹿野郎」と、口ごもったように奥さんを叱り続けている。
「主人は消し炭というあだ名なんです。吹けば吹くほどにカンカンに怒ってくるんです。ボケと癇癪で家族も困っているんです。少しでも腹を立てないようにできないですか」という。そこで熱を冷ます黄連解毒湯という漢方薬を処方した。この薬は抗炎症作用があり、皮膚炎、胃炎などに使用される。4週間ほどして奥さんが来られて、「ボケは相変らずだが腹を立てなくなった。随分と助かっている」という。熱をさます薬が怒りの炎を冷ますのだら漢方は面白い。

癇癪は体質

普通の怒りと癇癪とを厳密に区別してほしい。癇癪は体質だ。食べても太らない、痩せの大食い体質、漢方でいう解毒症体質に癇癪持ちが多い。解毒症体質の人は食べたものがエネルギーに変わりやすい体質なので、どうしても体に余分なエネルギーが溜まる。そのエネルギーを吐き出すために癇癪を起こす。セッカチのことを関西ではイラチというのだが、イラチは先のことを考えてイライラしているのでイラチというのだ。

私の経験

「あなたがボケて入院したらきっと看護婦さんのお尻を触ったりする変態じいさんになる」と妻がセッカチ者の私をからかう。「そうかもしれん。だが恥ずかしいのはお前だ。なんせこっちは何もわからんのだから。謝りにいくのは恥ずかしいぞ」と言い返す。ボケについてはいろいろ研究して新聞にも取り上げられてたこともある。ボケの治療についてはまたあらためて話そう。

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