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香杏舎ノート

第193回「医学部入試の公平性(東京医大は何を間違ったのか?)」

父は医学部入試の面接官をしていて、面接の点数を配分する権利を持っていた。無論、筆記試験の点数で合格が決まるが、面接の点数も加算されるので、総合的には合計点数が入学基準となる。
ある時、父と話をしていると、「髪を肩まで伸ばしているようなヤワな男には0点をつけている。」と言ったのを聞いて、医学生だった私は驚き、反論した。「人を見かけで判断してはいけないじゃないか。」
すると父は、「そういうヤワな奴には医者になってほしくない。それが医者として生きてきた俺の信念だ。」といった。

昭和18年 海拉爾(ハイラル)の父。

昭和18年 海拉爾(ハイラル)の父。

父は陸軍軍医として第二次世界大戦に従軍した。射撃の腕は部隊でトップクラスだった。激戦地のフィリピンでは米兵の顔が見えるほどの白兵戦にも出会いながら生き延びて終戦を迎えた。復員してから衛生行政に携わり晩年、皇居に呼ばれて叙勲された。

こんなことがあってから私は入試の公平性とはどういうものだろうと考えるようになった。点数だけで医学部の入学を許していいのだろか?医者として患者に奉仕する情熱を、いかばかりの点数であっても基準に入れる必要はないのだろうか?

世界的にみると入試はペーパーテストだけではない

日本ではペーパーテストで医学部の入試が決まるが、これがよい選抜方法かは分からない。東京大学医学部を卒業した学生の3割は医者をせず塾の先生をしているという。この最難関大学を受験する生徒の中にはクイズ王決定戦のような感じで受験してくる生徒もいるらしい。こういう学生には医者になって患者に奉仕するという意識が少ないのではないか?だから塾の先生をしているのではないか?そんな風に思えてならない。

ハーバード大学では大学に寄付をすることが入学の助けになる。母校愛の強い卒業生は自分の子供をハーバード大学に入れたくて寄付をする。大金ではなくても毎年少しずつ寄付をする事も大切な評価の対象になる。合否ラインの上にある学生にとって寄付は役に立つ。学業の成績だけではなく、高校時代の慈善活動や大学に占める人種の比率、ソーシャルクラスなども考慮されて合否が出されているようだ。そういう工夫をすることがさらに大学の評価を高めることになる。ただしその基準はブラックボックス化されていて部外者には分からない。

AO入試

日本でもペーパーテストの点数だけではなく合否を決める制度がある。AO入試だ。一番初めに日本でAO入試を始めたのは慶應義塾大学だ。難関な法学部でもAO入試を実施している。きちんとしたルールを決め、それを公表して学生を選抜する事は何の問題もない。点数以外で入学を許可しているということは、当然、面接官の感情や人物判断が判定の基準になる。

慶応大学の卒業生を見ていると多種多様な才能を持った卒業生が多いように思う。これは入学者を選ぶ多種多様な手段を持っているためだ。学生を選別する方法として、慶応大学には普通の受験、AO による入試、この2つが知られているが、さらに別の2つの選別の方法を持っている。

慶応には幼稚舎があり、幼稚園児から入学者を選ぶ。幼稚園児はあまりに幼いため学力テストはできないし、早生まれと遅生まれでは随分と発達状況が違うから、本人の素質はもちろんのこと両親の教育方針などを探りながら子供を選抜することになる。そうなると家柄や有名人かどうかといったことも判断の基準になる可能性があると想像される。

慶応にはニューヨーク学院というアメリカ在住の日本人の高校生のための学校があり、そこを卒業した場合、成績に応じて学部は異なるものの慶応大学に入学することができる。どうしても慶応に入れたいと願う父兄は、かなり高い学費を払って留学させる。留学することで英語の能力を高めることができる。

これらのことをまとめてみよう。慶応大学に進学したい生徒は、下記の4つもの方法がある。

  1. 普通に大学受験する。
  2. AO入試を使って大学に入学する。
  3. 幼稚舎から大学を目指す。
  4. アメリカのニューヨーク学院から入学する。

この中の3つは単なる学力だけで合格すると言うものでない。こういったルートを駆使して質の良い生徒を集めている。

われわれは試験社会を生きてきて、ペーパーテストが人を判断する唯一無二の方法だという先入観を植えつけられてしまっている。もし私の父の話を聞いて腹を立てたなら、その人は先入観を埋め込まれた人だ。入試には点数だけではなく面接といった人物の判断評価も普通に使われているからだ。

東京医大の問題

父は面接点を減点することもあれば加点することもあった。晩年、父は10ほどの大きな病院を束ねる立場にあり、国立大学の医学部でも教鞭を取っていた。定年前になっても公務員とは公僕(大衆に奉仕する者)と語る父の面接官としての資格に問題はないと私は考えている。

最近、話題になった東京医大のやり方が問題なのは言うまでもない。特に女性差別はひどい。父が生きていたなら激怒するはずだ。私も許しがたい行為だと思う。

東京医大の問題点を列記してみよう。

  1. 制度化された方法ではなく加点、減点がされていたこと。
  2. 女性差別をしていたこと。
  3. 寄付をもらったり、卒業生枠を設けていたこと。
  4. 3浪以上を減点していたこと。

さきほど述べたようにハーバード大学では寄付を奨学金として貧しい入学者に提供しており、何らかのルールで運営されて寄付を受けることは制度として問題視されることはないが、裏口での金のやり取りは明らかに犯罪行為だ。

女性差別と3浪以上の差別は許しがたい行為だが、医大の事情が見えてくる。3浪以上の学生を取った場合、医師国家試験の合格率が悪くなるのだろう。成績を上げるために留年させると学内が学生であふれ、顕微鏡など実習に使う用具も大量に用意しなければなくなる。そういう事情から一律に減点していたのではないだろうか。ちなみに3浪以上の入学者は頭が悪いわけではない。過激な試験競争で燃え尽き症候群にかかっているのだ。1-2年休むと元気が戻るのだが、大学にはそういうシステムがない。

女性の医師が増えると何が困るのか?

医者の労働環境は想像以上に悪い。政府の働き方改革でも医者の残業時間だけは他の業種と違って5年間適応を延長することが決まっている。それほど過度の労働によって日本の医療は維持されている。医者の過労死、自殺、患者さんからの暴力もよくあることだ。こういう職場環境の中で仕事を続けていくのは大変な体力がいる。

日本では女性に対する妊娠、出産における社会サービスが充実していない。大学が女性医師に僻地医療に1年間行って欲しいと考えた場合、妊娠している人は行かせることができない。僻地なので妊娠中に何かあれば対応できないからだ。小さな子供さんのいる女性の先生も無理だ。そうなると大学として社会に貢献することができない。そんなことから女性の入学者を取らないようにしていたのだろう。

これは医師に限ったことではないが、日本は国として女性が活躍できる環境、具体的には託児所などを早急に整えなければならない。女性は男性以上に優秀な人が多い印象があるが、出産、育児でそのキャリアが途絶えてしまう。諸外国で女性医師が多いのはこういった環境が整っているからだ。

大企業は育児休暇をはじめ託児所などの制度が整っているが、大学病院にはない。なぜか?

東京医大の医師数は680人ほどで交代要員を出す余裕はない。680人は中小企業の人数だ。トヨタは連結の従業員数は38万人もいる。また大学病院には大企業のような潤沢な資金がないから自前で託児所を作ることは不可能だ。よく知られているように東京女子医大や日本医大は赤字経営だ。東京医大は黒字だが、大病院の4割、自治体病院の9割は赤字だ。

医者は金持ちだから個人でベビーシッターを雇えばいいと思うかもしれないが、医師の給与は大企業の給料より悪い。医者は国から過剰労働を黙認され、診療報酬を抑制され、おまけに診療報酬は公定価格なので経営努力はできない。救急外来の医者が不足すれば(患者のたらい回し)と世間から非難される。それが医者から見た現状だ。
この事件を参考にして、これから女性に対する試験差別はなくなるはずだ。だから安心していい。

ただ医学部を受験する女子生徒に言っておきたいことがある。

医学部の教育は6年、研修医として2年、合計8年ではない。最近、専門医制度が見直され、統一した機関が専門医を認定するようになった。専門医としての教育期間は5年なので、医師を目指してから13年経って初めて一人前の医者になることができる。この5年間の中には義務として僻地勤務も入っているので、子供を持つお母さんは僻地に行くことができない。それと当たり前のことだが、病院では週1回の当直が回ってくる。患者さんが重症の場合、何日も病院に泊まりこまなければならないこともある。幼い子供がいるからといって重症の患者さんを放って帰宅するわけにはいかないし、当直はしないと言うわけにはいかない。
医者の世界の現状とはそういうものだと理解してから医学部を受験してほしい。

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