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香杏舎ノート

第187回「勤務医は本当の漢方を学べない」

様々な生薬を組み合わせて患者さんを治していく本当の漢方医になるには、実際に生薬を混ぜ合わせて患者さんの病態を診ながら治療する経験を積まないとダメだ。
保険の漢方薬はそれなりの効果があるが、現代の病気にあった薬は少なく難病を治すには不向きである。

時折、私のクリニックに勤務医の先生が見学に来られることがある。しかしほとんどの先生は生薬の加減を覚えることができないでいる。理由は明白で、病院に煎じ薬を置いてくれないためだ。

院外処方箋で調剤薬局に薬を依頼する手もあるが、採算が取れないから生薬を保険で出す手伝いをしてくれる薬局はまずないといっていい。それなら病院で自費の診療をすればよさそうなものだが、病院は混合診療を恐れて協力はしてくれない。

混合診療への恐怖

保険の薬と自費の薬を一緒に出すことを混合診療という。自費の薬を出してその経過をみるために血液検査を保険ですると、これも混合診療になる。以前は混合診療には厳しい罰則があった。保険医療機関で自費診療の薬を出すと、保険医の資格を失うことまであったのだ。

ここまで厳しい制度を設けたのには訳があると考えている。
保険を支払う支払基金は、悪い医者が保険の薬を自費の薬だと称して患者に出すことを極端に恐れたのではないか。そこで保険診療を徹底するために一罰百戒の対応をしたのではないかと思われる。

1999年バイアグラが発売されると、保険医療機関で自費の薬を処方する必要が生まれた。そこで、政府は自費のカルテと保険のカルテを明瞭に分け、同じ日に保険の薬と自費の薬を出さないこと、同じ病名に自費と保険を出さないことなどを条件に、保険医療機関でも自費の薬を出すことを限定的に認めた。

自費と保険治療の線引きを明確にするのは意外に難しい。漢方で自費診療をしている患者さんが化膿症になり、抗生物質をくれと言われたらそれは自費になる。以前保険で、抗生物質を出していたら患者さんは自費になることをなかなか理解してはくれない。

医者はふとした不注意から混合診療になるのを恐れている。特に病院は混合診療になることを恐れて、漢方外来をしている大きな病院でも自費の漢方薬を使うことを許してはくれない。
そんなわけで、昔から保険外の生薬をつかって腕を上げていくことはとても難しいのだ。

学ぶには忙しすぎる医者たち

大阪から漢方を習いに来ていた小児科の先生は、市民病院で夜間の救急外来をしているときに、147人の患者さんが来たことがあると話していた。幼い子供を持つ母親は病院で順番は待ちたくないし、お父さんが帰ってから車で救急外来にやってくる。あまりに多くの患者が来たので、友人の小児科医を呼び出して2人で朝まで診察したという。忙しすぎて漢方の勉強などできる暇もないと言っていた。
親戚の医者は心臓カテーテル検査を専門にしている。私の漢方を学びたいとの希望だったが見学に来る時間がないので仕方なく弟子入りを諦めた。

とにかく医者は忙しい。寝る暇もないほどだ。過労死や自殺も多いが不思議なくらいマスコミでは扱われない。

大手の広告会社に入社した女性が自殺した問題は大きくマスコミに取り上げられ、大企業では厳密に労働基準法が守られるようになってはきているが、病院では過労死ラインをはるかに超える時間外労働が行われている。
政府は医者に限っては、時間外労働規制の適用は5年間延期することを決めた。こんな状況では疲れすぎて家に帰れば寝てしまうだけになる。

自費診療の施設の少なさ

さらに悪いことに自費診療を学べる施設までほとんどない。
慶応大学や富山医科薬科大学の漢方外来は保険診療だ。北里大学は自費診療だがほとんど生薬の加減をしない。
私のように特殊な漢方を自費で出しているクリニックは極めて少ない。そういった施設は基本的に見学させることを嫌う。そうなると自習しかなくなる。仕方なく漢方メーカーの主催する勉強会に出席する。そこでは講師の先生が煎じの処方を雄弁に語るが、実際に使っている人はほとんどない。

私はいろいろと工夫してテレビ電話を使った教育法を開発した。これだとクリニックに来なくても済む。しかし、医者はそういったネットの知識に疎いので理解できないようだ。

いずれにせよ生薬を組み合わせて病気に合った処方ができるようになる関門は、とてつもなく高いものになった。

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