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香杏舎ノート

第123回「纒足(てんそく)」

纒足。てんそくと読む。女児の足を人工的に小さくする中国の風習だ。赤ん坊の親指以外、すべての指を足の裏側に曲げて包帯でしばりつけておく。しばらくすると4本の指は爪が地面に接するような形で固定され、もどらなくなる。足は異常に小さくなり、踏ん張ることができないからヨチヨチ歩きになる。五代・北宋の時代からはじまった奇習で、共産党革命後に禁止されるまで千年も続いてきた。 なぜこのような女性蔑視の行為が行なわれるようになったか。一説には女性が家から逃げだせないようにするためだとか、歩く姿が可愛いからだと言われているが、性的な意味合いもあるようだ。

中国人男性は足に執着する

纒足の本当の意味は何だったのか。纒足をした女性がいなくなった現在、知るすべはない。ひょっとすると事情を知る人がいるかもしれないが、口にすることもはばかられる風習だから誰も本当のことを喋らないだろう。

もともと中国人男性は女性の足に執着する傾向がある。中国で描かれた春画を見ると足を強調したものが多いし、チャイナドレスの深いスリットを見ても執着の深さをうかがい知ることができる。纏足をしてまで足に執着するということに変質性を感じないわけでもないが、なにも中国人だけが女性の体の部分に執着するわけではない。

たとえば欧米人の男性はバストに魅せられる。だから胸の谷間が見えるような服をきた女性が好きだ。裸を見られると白人女性はバストを隠すが下半身は隠さないという。この話の真偽のほどは確かではないが、女性たちが胸の大きさにコンプレックスを感じるほど男たちのバストへの執着は強いのだろう。現在、胸を大きく見せるための豊胸手術が広く行われている。この豊胸手術に纏足と同じような感慨をもつ人もいるかもしれない。

日本人の男性は何に執着するのか。それは肌だ。もともと日本語には触感を表わす形容詞が多い。ツルツル、スベスベ、ゴワゴワ、ザラザラなど。日本人の触覚へのこだわりは強い。だから日本では色白、もち肌美人が珍重される。

私の友人で旅行会社のツアーガイドをしている男がいる。世界中の女性と愛し合った経験を持っている。インド人、白人、黒人、ブラジル人、タイ人、フィリピン人など数多い。その友人によれば、やはり肌がきれいな中国、韓国、日本の女性が好きだという。中国人は足、欧米人はバスト、日本人は肌、民族によって執着する部分が異なるのが面白い。

日本女性の好み

男性ばかりを見てきたが、日本の女性は男性の何に執着するのだろう。男性ほどはっきりした執着はない。むしろ女性が嫌う体質は意外にはっきりしている。マッチョ(筋肉モリモリの男性)や毛深い男は日本ではもてない。あまり男性化した体は日本では好まれないのだ。体操選手のような筋肉が発達した体より、水泳選手のようなツルリとした体質が好まれる。欧米の女性と異なり、日本の女性は男性化した体つきに暑苦しさを感じるようだ。

個人のこだわり

「僕はバストの大きな女性が好きだ」、「私はマッチョな男が好きよ」というふうに、個人的にみれば日本人にもいろんな好みを持つ人がいる。この異性へのこだわりを観察してみると面白い。さほど体形や体質に興味のない人でも強い執着を持っていることに驚くことが多い。しかもこの執着を、ほとんどの人は自分では意識せず、単に肌合いが悪い(こんなところにも肌の触感を示す言葉が使われているところが面白い)としか感じていないのだ。

夫婦円満は好みが一致すること

友人のA君、女性の好みは漢方でいう陰虚タイプ。食べても太らず、汗をかきにくい体質だ。彼がつきあうのは、みなこのタイプ。本人は「髪が長い女性が好きだ」と単純に思っている。結局、彼はこの体質以外の女性と交際することはなかった。

こんな体質への執着を見ていると、人間もやっぱり動物なんだと思ってしまう。たとえ性格がいい人であっても、こういう執着が満たされないと一緒には暮らしていけない。結婚が破綻するのも自分が気づいていなかった体質への執着の違いからおこるのではないだろうか。

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