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夢の中の老人

第16話「科挙シンドローム」

頭の悪い弁護士

夢の中の老人第16話私は代官山のTサイトにあるスターバックスでカフェラテを買い、屋外の椅子に座って飲み始めた。空を見上げると紫色のストーブ炎の向こうに満月が見える。突然、ゆらゆら風景が揺れはじめ、私は睡魔に襲われて眠ってしまった。すると夢のなかに例の老人が現れて話し始めた。

「弁護士法人を経営する弁護士と話をしていて興味深い話を聞いた。若い弁護士を雇うのだが、頭の悪い奴が多いという。しかも東のT大学、西のK大学といった一流の大学を出ているのに使い物にならないらしい。俺はどういうふうに使い物にならないのか聞いてみた。すると、若い弁護士たちに案件を与えると一生懸命仕事をするのだが、肝心の問題解決をどうするかという展望が描けないといった弁護士としての基本的な適性を欠いていると言うのだ。」

「弁護士試験と言えば日本で最も難しい試験の一つで、その合格者は日本の知的エリートですよね。しかも一流大学を出ていてもそんな状態なのですか?」

「コンサルティング会社の採用担当者が書いた本にもそういう話が出ていた。東大の法学部と経済学部の卒業生を比べると、難易度は法学部のほうが高いにも関わらず、いわゆる地頭の悪い奴が多いというのだ。」

「どうしてですか?難関な試験をパスする人は優秀だと思うのですが?」

「あまり勉強させすぎると返って頭が悪くなる。俺はそういった現象を科挙シンドロームと名付けている。」

「科挙制度は中公新書で読んだことがあります。中国の官史の登用試験のことですね。隋の楊堅が制度を作り、清の時代まで1600年も続いてきた制度です。貴族が独占していた官僚の地位を身分に関係なく、誰でも試験に合格さえすれば官僚に当用するという制度です。とても難しくて3年に1度しか試験がなかった。合格者の年齢もたしか35歳くらいだったと思います。」

「そうだ。楊堅の発想はよかったのだが、四書五経を暗記させるなど過酷な勉強を強いたがために頭が悪くなってしまった。」

「どうして頭が悪くなるのですか?」

「子供の頃は友達と遊んだりケンカをしたりして、いろんな経験を積まないといけない。感受性の高い時期だけに自然と触れ合ったり、絵を描いたり感性を磨くことも大切だ。だが難関な試験を突破するために、勉強さえしていれば他のことは一切しなくていいように育てるから常識のない人間が出来上がる。
今、弁護士になろうと思えば科挙のように大変だ。まずは一流の大学に合格しなければならない。次に司法試験の合格率の高い大学院に合格し、さらに司法試験に合格する必要がある。東大でも合格率は半分程度だから大変難しい試験だ。難関な試験をつぎつぎに突破するためにはよそ見をしている暇はない。」

「確かに子供の頃から勉強漬けでないと合格はおぼつかないでしょうね。」

小学校しか出ていない弁護士

「じつは俺の祖父も弁護士だ。ただし、尋常小学校しか出ていない。極貧の農家に生まれたが、学問への夢が捨てられずに農作業をした後に木こりをして金をためて東京へ出た。法律の学校に通ったが学費が続かなくて1年で退学した。その後、独学で弁護士になり、故郷に帰って事務所を開き、弁護士会長まで上り詰めた。」

「すごい立身出世ですね。」

「努力家の祖父だとは思っていたが、祖父の人柄に驚いたのは葬儀の時だ。祖父は亡くなる10年も前に引退していた。だから正直言って葬儀に多くの人が集まるとは思っていなかった。だが葬儀が始まると突然人だかりができ始め、車道を埋め尽くすまでになった。しばらくするとパトカーに先導されて神戸市長が弔問に訪れた。警官が交通整理をしないといけないほどの人々が祖父との別れにやってきた。木こりをし、苦学して弁護士になった祖父はそういった経験を通して貧しい人や苦労人の気持ちが分かり、ここまで尊敬されるようになったのだろう。学校教育だけが人を育てるのではない。様々な経験が人を育てる。
俺が恐ろしいと思うのは、今の時代だったら祖父は弁護士になれていないということだ。大学と大学院を卒業しなければ司法試験を受けることすらできない。おまけに試験に受かっても司法修習する間はバイト禁止で給料も出ないのだから。」

「本当に金持ちしか弁護士になれないのですね。」

「科挙制度では誰でも試験を受けられた。今は大学と大学院を出ていないと受験資格がない。だから金持ちしか試験を受けられない。そういう意味で科挙制度よりも質が悪いかもしれない。
有名な話だが東大生を持つ親は一般の親より倍くらい金持ちだ。金持ちでないと塾の費用を出せないからだ。塾に行かないと大学受験も大学院受験もそして司法試験にも受からないことは誰でも知っている。最近は、能力が高い子供でなくても、先生の言われるまま素直に勉強に耐える子供なら難関な資格を取れる時代になった。受験テクニックが一大産業になってしまったのだ。」

「なるほど。たしかに素直な子供しか試験には受からないでしょうね。」

医師の試験に出る地雷問題

「資格試験というのは、その人が資格を取って仕事をやっていけるにふさわしい知識があるかどうか問うものだ。
ところが最近は試験をただ難しくしているように感じる。医学部の教授から聞いた話だが、医師国家試験には以前はなかった地雷問題というのがあるという。試験を受けていい点数を取っても地雷と呼ばれる問題を1つでも間違うと合格しない。それで地雷問題と言われている。」

「そんな大事な知識なら全員に記憶させればいいじゃないですか。」

「医学部に合格するのも大変な勉強が必要だ。ここにも科挙シンドロームが出てきている。医者の卵たちは塾で育っているから素直に勉強はするが、指示されたこと以外は何もやろうとしない。おまけに医学部に入っても、国家試験のための塾の世話になっている。医学部に予備校の講師が派遣されている大学もある。」

「本当ですか?医師国家試験対策も塾ですか?塾は試験技術を教えるプロ集団というわけですね。」

「公認会計士や税理士になるための塾もあり、そういった資格を持っている人たちに聞くと、塾なしでは合格はおぼつかないという。一般の大学生でも就職の面接を上手くこなすために面接の塾にいく。競争に勝っていくためには金を払って塾にいけばいいということを子供の頃から教えられ、またそれで競争に勝ってきた成功体験から、先生がいい方法を教えてくれるものだという癖ができ、自分で問題を解決することも自分で新しいことに挑戦することもできなくなってしまった。」

「でもこんな現象は一部の人だけではないですか。」

人を選抜する難しさ

「無論、優秀な人もいるだろう。だが問題なのは試験を作る側もまともでなくなっているということだ。
たとえば司法試験は3回しか受験できない。司法試験の受験を申し込んでも自分の実力が不十分だと感じて試験直前に受け控えする人が2割もいる。不十分な実力で試験を受けて3回しか受けることが出来ない受験回数を減らしたくないからだ。医学部の地雷問題もそうだが、試験を作る側にも科挙シンドロームが広がっている。簡単にいうと馬鹿が試験制度を作っているということだ。
日本が科挙シンドロームの道を歩み始めたのは団塊の世代のころからだ。教育ママという人種が現れ、団塊という多くの子供たちの中で自分の子供が勝ち残っていくための方法として塾や家庭教師が使われ始めた。そんな中で育った奴らが指導的立場に立ち、試験問題を作っている。試験を受ける受験者のみならず、試験を実施する側にもまともな奴は少なくなってしまった。

こんな大変なことが起こっているのに科挙シンドロームに多くの人が気づいていないのには理由がある。勉強ばかりしてきたエリートは一見おとなしい。言われるままに育ってきたので素直だ。だが先例のないことはしないし、自分が責任を取ることもしない。また新しい発想をすることもない。人畜無害に思えるからみんな気にしていない。そして我々もこの科挙シンドロームを容認している。すべては試験で決まるのが平等であるとの教育を受けているから、それが一番嫉妬を呼ばない選抜方法として定着している。」

「試験制度以外に他のいい方法はないですね。」

「難しい。もともと司法試験改革が行われたのは、旧司法試験で通ってくる奴がとても変な奴が多くて、つまり科挙シンドロームにかかっている奴が多くて、妙な判決文を書いたりするので、大学院で勉強させて法律家をつくり、その中で司法試験を受けたい人が試験を受けるという制度設計だったと聞いている。だが科挙シンドロームにかかった頭の悪い奴が試験設計をしたので、変てこな制度が出来上がってしまった。本来、勉強は自分を豊かにするものであり、またそれによって社会が豊かになっていくものでなくてはならない。

よく知られているようにフランスには科挙のようなグランゼコールという制度があり、そこを出ないとエリートになれない。この制度がフランスを強くしたとは思えない。ルノー、シトロエン、といった自動車産業が駄目になり、フランスのモード界も以前の勢いはない。国際的な地位も低下している。50年前なら外交官はフランス語が必須だったが、今は英語でいい。グランゼコール出のエリートは豊かになったかもしれないが、制度が国を弱くしてしまった。

同じように日本の衰退が止まらない。ソニー、ホンダ、シャープといった会社が駄目になってきたのもユニークな創業者が亡くなり、科挙シンドロームのサラリーマン社長になったからではないか。サラリーマン社長は自分が社長を退いた後も権力を振うことができるように無難でおとなしい後継者を指名する。考えてもみて欲しい。地雷問題で育ったらミスだけはしないように注意するが新しいことを試みるはずがない。
こういった事態を解決するためには人を選ぶ際に試験ばかりに頼らないことだ。また中学や高校を出た人でも大会社の社長になれるようなシステムも必要だ。だがそれは日本が相当行き詰るまでおこらないだろう。」

「日本の停滞はこんなところに原因があったのですね。」

やれることは家での教育

「我々のできることは出来るだけ自分の子供が馬鹿にならないように工夫することだ。俺は娘を小学校から高校まで12年続いている学校に入れた。頻回に受験しなくてすむからだ。そして科挙シンドロームにならないようにするにはどうしたらいいか考えた。

考えている時、知人の息子さんが塾に通っていた時の話を思い出した。息子さんは家から車で1時間かかる塾に通っていた。学校から帰ると同居している祖父が車で塾まで送っていく。息子は車のなかでおやつを食べながら勉強する。迎えに行くのは会社から帰ってきたお父さんの仕事だ。夕食の弁当を持って迎えにいく。息子は帰りの車の中で夕食の弁当を食べて少しばかりの休息をとり、また勉強する。頑張った甲斐があって東大に入学したが家族が往復4時間かけて塾に行かせているのに驚いた。

考えてみると科挙シンドロームになってしまうのは、勉強を頑張る子供に家族が家臣のように仕え、社会から遮断して勉強だけが価値のあるものだと思いこませてしまうものだと分かった。そこで俺は娘には小学校の低学年の頃から買い物にいくと必ず荷物を持たせた。小さい体で引きずるように荷物を持ちながら「私の学校でこんなことをさせられているのは私しかいない。」とこぼしていたが、俺は家族の一員として家事も手伝って欲しいと風呂洗いもさせていた。娘は勉強も頑張り総代でその学校を出たが、少なくとも世間知らずの馬鹿にはならなかった。

先ほど出てきた祖父の話もしておこう。祖父は、医者で役人をしていた私の父を呼びつけて次のように言ったという。『もしお前が役所で法律に違反するような命令を受けたら断固拒否しなさい。それで職を失うことがあれば俺が食わしてやる。』

役所の中は曖昧にされている規則や議員からの圧力もある。そういった中で父が役人として生きるのなら、法にのっとった行動をしてほしいと祖父は願った。親父は上司にも自分が正しいと思うことを遠慮なくいい、とても恐れられたが、異例の出世を遂げた。
科挙シンドロームを防ぐには勉強以外の仕事もあるのだと子供に教えるのは大変役に立つ。また 祖父のように少しばかり子供の背中を押して勇気を与えてやると、社会に役に立つ人になれる可能性が出てくるのだろうと思う。」

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