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夢の中の老人

第15話「破れた軍服と運命」

「俺の親父はボロボロに破れた軍服を大事に仕舞い込んでいた。日本陸軍の軍医だった親父は、満州に駐屯していた後、激戦地のフィリピンで終戦を迎えた。茶色い軍服には中尉を示す徽章が着いていた。
親父は軍医だから最前線にいたわけではないと思うのだが、ある時、軍服を木の枝に引っかけて木の下に寝転んで休んでいた。その数メートル離れた場所に親父つきの兵隊が立っていた。そこに砲弾が飛んで来て破裂し、立っていた兵隊は死んだ。親父は上着が身代わりになってくれたおかげで無傷だった。
親父はこの軍服を見るたびに運命の不思議を感じるようだった。そして自分の生死を分けた偶然を運命と感じ、自分の人生も他人の人生も運命という言葉で見ていた。晩年の親父の口癖は人の人生はその人が棺桶に足を突っ込むまで分からないというものだった。一見幸せそうに暮らしても晩年不幸になることもあれば、その逆もあるということだろう。

俺も歳を取り、自分の人生を運命というキーワードで見つめ直してみた。
すると俺みたいな奴がここまで来られたのは多くの善良な人たちに出会えたという運があったからだと分かった。昔の俺はとんでもないワルガキで、とても今のような暮らしができるような奴ではなかった。」そう言って老人は話し始めた。

「どんなワルガキだったのですか?」

飼い猫を便所に放り込む

「ある時、俺は悪いことをした罰として部屋に閉じ込められた。俺はここから出さないとガラス窓を割ると言って母を脅したのだが、母が開けないので、本当にガラス窓を破ったのだという。俺には記憶がないくらい小さい時のことだ。」

「食えないガキですね。」

「だが、飼い猫を汲み取り式の便所に放り込んだのはよく覚えている。クロという真っ黒な猫を飼っていたのだが、便所に放り込むとどんな反応をするのか興味を覚えた俺は猫を便所に放り込んだ。猫は糞尿にまみれて必死でジャンプした。1回目のジャンプでは爪が便器にかかったのだが滑って落ちた。2回目のジャンプでようやく便所から飛び出し、糞尿を撒き散らしながら座敷を横切って庭に逃げた。」

「とんでもないワルですね。」

「俺の家は今で言う2世帯住宅で、祖父は弁護士で書生が事務をしていた。書生は勤務を終えると法律を学ぶために夜間の学校に行くのだが、俺は遅刻するように、書生の持ち物をよく隠したものだ。服部さんという書生がいたが度重なる俺の悪行に腹を立て、俺を抱きかかえると庭にある水瓶の中に俺を頭から突っ込みやがった。そいつは弁護士にはならなかったが、大きな労働組合のボスになった。骨のある男だった。」

「何才くらいの時ですか?」

「多分、小学校3~4年のころじゃないかな?俺は単なる悪ガキだけではなく、部類のイタズラ好きだ。イタズラも年齢とともに悪質度が増して行った。」

車に細工

「どんないたずらをしたのですか?」

「沢山あるのだが、幾つか話してみよう。友人と酒を飲んでいる時におかきを出してやった。ただしそのおかきには細かなノリの粉がふってあったのだが、俺はマジックでノリに似せた点を沢山つけておいた。しばらくすると友人が笑った時に気がついたのだが、歯が真っ黒になっていた。」

「体を害さなかったのですか?」

「今も元気にしているから多分、問題なかったのだろう。
もうひとつ面白かったのは友人の車にイタズラしたことだ。友人がいい車を自慢げに乗ってきやがったので、ボンネットを開けて4つあるプラグキャップの一つを外しておいた。車は4気筒から3気筒になったわけだ。おかしなエンジン音を立てて友人は帰って行ったのだが、しばらくするとすごいクラクションの音が聞こえてきた。友人は近くの交通量の多い交差点の真ん中でエンストして周りの車からクラクションを浴びていた。」

「危ないじゃないですか。」

「昔は今ほど神経質な時代ではなかった。沢山の面白いイタズラをしてきたが話し出すときりがない。」

「勉強はどうだったのですか?」

「出来なかった。何とか私立の進学校に入学したが、いつもビリの方で落第しないか心配だった。ただ、大学に入ると急に成績が良くなり、学費半額免除の特待生として卒業した。成績が悪かったのは、今から考えると考えすぎるのが原因で、受験など言われたことを素直に覚えていけば良いのに、色々考えすぎて成績が悪かった。長い時間勉強するのに成績は悪いという最低の生徒だった。
俺の欠点はそれだけじゃない。俺は人を人とも思わないところがあるらしい。」

なんだね君は!准教授みたいな顔をして。

「俺は立っているだけで不遜な雰囲気を出しているらしい。
大学を卒業した謝恩会の会場での出来事だ。ぼんやりとビールを片手に会場で立っていた。すると一人の教授がやってきて「何だね君は!准教授みたいな顔をして」そう言うと行ってしまった。あまり知らない教授で迷惑をかけた事もない。多分、私の醸し出す不遜な雰囲気に反応したせいだ。ただ立っているだけで、2度もそんなことを言いに来るのだから。それを見ていた友人が笑い転げて、『お前は上司に嫌われるタイプだ。何もして無いのにそれだけ嫌われるのだから組織の中では絶対出世しない。』と断言した。
じつは俺には悪い癖がある。何処にいても考え込むというか物思いにふけるというか、とにかく頭が忙しく物を考えてしまうのだ。そうすると周りの物が見えなくなってしまう。そしてその時は随分怖い顔をしているらしい。
ある時、俺の兄がパチンコをうっていると俺が入ってきて、横に座ってパチンコを打つと知らん顔をして出て行ったという。最近も考え事をしていて駅を乗り過ごしてしまった。」

「うたた寝をしていたわけでなく、ですか?」

「目をしっかり見開いていた。液体を濃縮する方法を考えていたら気がつくと一つ先の駅だった。こんな調子だからいろんな人に迷惑をかけた。
ある時、俺が出勤すると机の上にプレゼントのようなものが置いてある。遺失物として処理しようとすると、それは俺に思いを寄せている女性から贈り物だった。自分の頭が忙しいせいで、密かに思いを寄せている人に気がつかないのだ。
ある時は女性に礼状を書いたら、『私の名前は⚪️⚪️なんかじゃない』と手紙が来た。別の女性の名前を書いていたらしい。失礼な話だがよほど印象がないと俺のボケた頭はしっかりと認識しないらしい。」

「最悪の男ですね!」

「俺は女性とデートしている時でも冗談をしたくなることもある。女性と腕を組んで公園を歩いていた。足元にはフカフカした絨毯のような芝生があったので、突然その女性を払い腰で投げてみた。」

「怒ったでしょう。すぐに振られたわけですね。」

「いや大丈夫だ。謝恩会事件は会場でもぼんやりと考え事をしていて教授に気がつかなかったのが原因だろう。俺は決して尊大な人間ではないと思っているのだが、誤解されていることが多い。
ただ生意気なところが全くないといえばそうでもないかもしれない。

大学生の時、家庭教師をして金をため、エアコンを自分の部屋につけた。その当時エアコンは今の金になおして40万くらいしたのではないかな。ほとんどの家にエアコンはなかったし、無論俺の家にもなかった。親父に無断で部屋につけて、俺だけ涼しい場所で勉強していた。時々、兄弟が涼みにきていた。」

「そんな息子持ちたくないですね。」

「何れにせよこんな俺だから出世など望むべくもなく、友人が予言したとおり組織の中では生きることが出来なかった。
ただこんな俺にでも親切にしてくれた何人にも出会うことができた。今、俺が自営できるように知識を教えてくれた先生は無論のことだが、何人もの親切な人に出会うことできた。その一人が相模教授だ。

俺が大学院生の時に相模教授のところから院生がやってきた。彼を指導する助手はあまり頼りなかったので、大学院の学生だった俺が学位を取らしてやった。大学院生の俺が大学院生の学位を取らせるという、まあとんでもない生意気なことをしたのだ。
ある日、相模教授にエレベーターの中で出会った。教授はとても怖がられていたので俺も緊張した。すると教授が教授室に来いという。緊張して教授室に入ると、『君は実力さえあれば肩書きはいらないと思っているのだろう。若い時の俺と一緒だ。だがそれだけでは世間は認めてくれない。肩書きというものが必要だ。ところで君、うちの教室の非常勤講師になってくれるね!』と声をかけてくれた。しばらくして一人で新しい分野を研究していると、永井教授もおれを非常勤講師にしてくれて、俺は2つの教室の非常勤講師務めることになった。今みたいに芸能人が大学の先生になれるような甘い時代ではなかったので、各地を講演で回る俺には大変ありがたかった。」

「ありがたい話ですね」

「本当にそうだ。仕事での話ばかりでは面白くないので、プライベートの話もしよう。
俺は美人のガールフレンドがいた。ある時その女を車で家まで送って行くことになった。一緒にいた友人たちが別の車で後をつけてきた。俺たちがデートに出かけないか監視しているようだった。彼女の家の前に着くと友人の車もすぐその後ろで停車した。女はにっこりと微笑んでありがとうと言って車を降りた。家に入るのかと思ったら、すぐ後ろに止まっている車に向かって歩いて行くと運転席側のドアを思いっきり蹴飛ばした。ボコンという鈍い音がした。そして何も言わずツカツカとヒールの音を立てて家に入って行った。」

「激しい女性ですね。」

「その女性からある日、お母さんの職場を見せてあげるから神戸の三宮に来て!と言われて俺は慣れないネクタイを締めて出かけた。
連れて行かれたところは神戸でも有名な高級クラブだった。カウンターに座って待っていると、真っ赤なミニスカートを着た女や、背中の大きく空いたスパンコールのドレスを着た女たちがおはようございますと言って入ってくる。二十歳の俺はこういう世界では晩にもおはようございますというのかと驚いた。
しばらくすると紫色の絽の着物を来た女性が出てきて母でございますと挨拶してくれた。母親はそのクラブのママだった。
今と違って水商売のお嬢さんは結婚相手としては一般の家から敬遠される傾向があった。彼女はおれには自分のことを知って欲しいと思ってお母さんの職場に連れて行ってくれた。この女が他人には知らせていないことを俺にだけ打ちあけてくれたのは俺を信頼してくれた証だった。そういった人に会うことで俺の心は次第に癒されていった。」

「変わり者にも親切にしてくれる人もいるのですね。」

「数は多くない。犬好きの多くはトイプードルか柴犬が好みだが、凶暴なブルテリアを好む人もいる。今の俺はせめて世話になった人のためにも、また迷惑をかけた人たちのためにも、その人たちが誇れる人物になりたいと願っている。
ただ、この歳になってもチャレンジしていく俺には晩年にどんな運命が待ち受けているか楽しみでもあり、不安でもある。棺桶に足を突っ込むまでどんなことがおこるか分からないからだ。」

2013.12.30 ガラケーで撮影夢から覚めると、私は簡単な朝食をとってから近くの武庫川に出かけた。
真冬のこの時期、渡り鳥のユリカモメが来ていた。もう少し下流まで歩いているとアオサギが川の中の流木にとまっていた。
それを見て俺は夢の中に出てくる老人を思い出した。ユリカモメのように群れて暮らす鳥もいれば、一羽で暮らす鳥もいる。老人は一人で生きていく人間のだろう。その中でいろんな運命にこれからも操られるのだろうと思った。

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