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夢の中の老人

第11話「平成士族の没落」

叔父が食事でもしようと電話をかけてきた。叔父には中学生の一人息子がいて、息子を将来どんな職業につけたらいいのか悩んでいた。PTAでも自分の子供をどんな職業につけたらいいのか話題になるという。確かに今の進路選びは難しい。大学を出て会社に入っても3年で30%の人は辞めてしまう。医者や弁護士にでもなってくれればいいが、そういう専門職の給与もだんだん悪くなってきている。そんな状況の中で塾や学校の費用ばかりが高くなる。そこで君の意見を聞きたいと言われた。急に聞かれても私に名案などないので、とりあえず帰って考えることにした。

緑翌日、私は散歩に出た。どう答えたらいいのか考えながら歩いているうちに疲れてしまった。心地よさそうな日陰を見つけて寝転んだ。葉の間から落ちてくる陽の光を見ているうちにいつのまにか寝込んでしまった。しばらくすると夢の中に老人が現れた。老人に叔父から相談されたことを説明すると、老人は「そりゃそうだ。今は変革の時代だから明治維新に士族が没落したように現代の士族も没落している」と言う。

「士族の没落ですか?士族って武士のことでしょう。」

「明治政府に召抱えられた武士のことだ。大名は華族になったが武士は士族になった。幕府が無くなったので、明治政府が人口の5%ほどの武士を養うことになった。その費用は国家予算の3割と莫大な金額だったが、士族はプライドが高くて軍人として使い物にならず、商売もできなかった。失業対策として唯一成功したのが屯田兵だが、政府も長く養っておくことは出来ないので早々に給付金を打ち切ってしまった。

江戸時代、武士の俸禄は親から子に引き継がれてきたが、この特権が剥奪された。これが明治における士族の没落だ。士族は没落したがその名称は戸籍に残り、昭和50年くらいまで旧戸籍には記載されていた。」

「明治時代の士族はいいですから今の士族とは何か、ちゃんと説明してください。」

「現代の士族とは学士、弁護士、博士、医師、公認会計士、薬剤師といった士(師)のつく肩書きの人たちだ。そういった人たちは資格を取ったら一生楽に暮らしていけるはずだったが没落しているのだ。」

「本当ですか?もし本当ならどうしてなのですか?」

「まずはその人たちが本当に没落していっているのか検証してみよう。そしてその人たちに共通する点を分析すればどうして没落したのかがわかる。

まずは学士から初めよう。学士とは大学卒のことだ。学士になれば大きな会社に就職できた。だが、今は就職率が60%しかない。大学進学者が大幅に増えたからだ。大学への進学率は、1960年頃は10%しかいなかったが、今では50%近くになっている。学士の数が多くなりすぎて就職できない人たちが増えているということだ。

では博士になると就職はよくなるのだろうか?昔は[ 末は博士か大臣か ]といわれるほどステータスが高かった博士だが、今では見る影も無い。博士が100人いる村というブログには100人の博士のうち16人が無職で、8人が死亡か行方不明と書いてある。つまり博士の24%は職もなく自殺したりしている。何故そうなったのか?それは文部科学省が博士号取得者を1万人にするために1996年から5年計画で策定した博士増産計画により博士が余ってきたからだ。」

「学士も博士も数が増えすぎて価値が落ちてしまった。そういうことですね。」

「数が増えればその相対的価値が下がるのは経済の原則だ。では医師、弁護士、薬剤師、公認会計士、一級建築士といった国家資格を持つ人の場合はどうだろう?実は同じように数が増えて没落している。弁護士は毎年600人が司法試験に合格していたのだが、今では2千人、だから年収200万の弁護士さえいる。医者は、30年前は4千人が医者になっていたのだが今や8千人、公認会計士は合格者が多すぎて公認会計士になるための就職が出来ない有様だ。」

「どうしてそんなに急に数が増えているのですか?」

「国が数を増やす政策を取っているからだ。士族の中でも特に増えているのが薬剤師だ。日本の薬剤師数はもともと人口1千人当たり1.2人と先進国の中で一番高かった。つまり薬剤師数をこれ以上増やす必然性は何処にもなかった。医者や弁護士は国際的に見るとまだ資格者数が少ないというが、少なくとも薬剤師はそうではなかった。だのに、ここ7-8年の間に薬学部が26も作られ、薬学部の定員は7千人から1万2千人と5千人も増加した。タダでさえ薬剤師が多くいるのに定員の倍近い増員は何を意味するのか?それは少子化と関係がある。」

「子供の数が減れば人口も減少して薬剤師も少なくてすむはずです。どうして少子化と関係があるのですか?」

「少子化になると大学に入学してくる入学者数が減る。大学としては薬学部を作ってそれを目玉にして生徒を集めたい。こういう大学側の事情で、多くの学部が将来の需要とは関係なしに作られた。法科大学院だってあれほど多くの大学院が作られたのは学校側の勝手な事情だ。」

「つまり文部科学省が自分たちの支配下の学校法人を救済するための方法として資格者を増産するような手立てを使ってきたというわけですか?」

「そうだ。社会的なニーズを考慮しても、ここまで学生定員を増やす必要はない。面白いことに薬剤師と似た資格で登録販売者というのがある。ドラッグストアに1年以上勤めていれば資格を取るための試験を受けることができる。この資格を取れば、一部の薬を除き、かなりの種類の薬、多分、売薬の95%くらいを薬剤師に代わって売ることができる。つまり薬剤師になるための6年の歳月と1千万の費用(私立大学の場合)をかけて勉強した資格と薬の販売に関しては、ほとんど同じことが登録販売員になると出来てしまうわけだ。」

「そうなると資格の意味がほとんどないじゃないですか?でもどうして登録販売者の資格が作られたのですか?」

「大手のドラックストアの要請で登録販売者という資格が作られたのだろう。これは人を安く使いたい業界の要請に応えたものだ。」

「なるほど教育も産業ですから産業振興のために資格者が増産されてきたわけだ。おまけに業界主導で安易に資格者が作られることもあるのですね。資格に憧れる人は多いけどよほど実情を研究していないと恐ろしいことになりますね。」

「そうだ。明治政府は士族の俸禄を取り上げることで士族を没落させた。平成の政府は資格者の数を増やすことで士族を没落させようとしている。だが没落は政府のせいだけではない。時代的な背景もある。情報革命が没落に拍車をかけているのだ。」

「それはどういうことですか?」

「もう10年前になるかな?医者から貰った薬が分かる本というのがよく売れた時代があった。自分の飲んでいる薬の効果や副作用が書いてあった。最近はさっぱり見かけなくなったが、それはインターネットで簡単に調べることが出来るようになったからだ。薬のことを薬剤師の先生に聞くまでもなく、自分で薬を調べることができる。だから薬剤師の頭の中の知識は以前ほど重要でなくなった。

医者や弁護士に相談していた病気や離婚のことにしてもインターネットで調べることができる。チャットで離婚経験者や病気を経験した人と話をして教えてもらえる。そういった変化も専門家の価値を低くしていると言えるだろう。」

「なるほど。数が増えた上に専門知識を簡単に調べることが出来るようになった。だから知識を売り物にしてきた平成の士族は没落してきているわけだ。それではどうすればいいのですか。」

「難しい質問だ。まずは資格に対する我々の考え方を根本から見直すことが必要だ。鍼灸師を例にとって説明してみよう。御多分にもれず鍼灸師も急増している。以前、鍼灸学校はとても少なかった。それは目の不自由な人のための職業学校として厚生労働省が健常者の鍼灸学校数を制限していたためだ。だがその制限が外れたせいで鍼灸学校が何十校も出来て鍼灸師の数が急増している。だが鍼灸師として働いているのはたった3割しかいない。他は別の仕事をしている。タクシーの運転手だったり、営業のサラリーマンだったりする。」

「それは数が多いからでしょ?」

「それだけではない。治療技術がないからだ。鍼灸師の試験に合格したからといって急に腕ができるわけではない。学校では生理、病理など基礎知識は教えてくれるが、肝心の技術までは教えてくれない。そういう技術は本来、師弟関係の中で教えもらうものだ。だが若い鍼灸師は就職すると給料を貰いながら先輩の鍼灸師からタダで技術を教えてもらえるものと信じている。つまり徒弟制度の中で学ぶべき技まで資格者なら教えてもらえると勘違いしている。医者も弁護士も公認会計士も実務で鍛えないと能力が上がらない。資格さえあればすべて上手くいくと思い込んでいる意識を変えることが先決だ。」

「士族になったからといって、それは出発点にしかすぎないということですね。」

「そうだ。自分の子供を士族にしたいと思う親は、まずはどんな士族が有利かを考えねばならない。いい大学に入ることや資格を取ることだけが目標のように育ててはいけない。一生懸命努力して士族の仲間入りが出来たと思っても後から数が増えてその価値が暴落する。デフレの時代にふさわしい現象かも知れないが、こういう時代こそ自分で考え、新しい士族が生まれてくる土壌を探してそこで自分を育てることが大事だ。」

「新しい士族ってどんな人たちで、どうすればなれるのですか?」

「あまり言いたくないな。君との会話は何人もの人に立ち聞きされているように思えてならない。」

「そんな意地悪なこといわないで少しだけでも教えてくださいよ。」

「体系化された知識はこれからの世界では高く評価されない。学校で習う知識、国家資格として整理された学問は誰でもがアクセスでき、ネット上を流れている。これからはノウハウの世界だ。」

「ノウハウとは何ですか。」

「秘密にされている知識、経験、仕事をするときの手順などだ。こういった多くのものは学問的には体系化されていない。たとえば、どんな腰痛でも治るツボを鍼灸師が知っていたとしよう。だが何故治るのかは分からない。そういった知識が学問として整理されるまでには時間がかかる。でもそのツボをノウハウとして知っていれば一生食べていくことができる。そのノウハウを知ることが大切だ。どんな業界にもノウハウはある。たとえば貸金業の友人に聞いた話だが電話一本で金を融資する方法、そのノウハウは秘密だと言っていた。不動産業界には不動産のノウハウが、流通業には流通業のノウハウがある。こういったノウハウはネットで流れることはないし、また流すことも難しい。こういうノウハウにアクセスすることだ。

考えてみると、俺たちはあまりに長い間、既存の知識を詰め込んだ人間を士族として尊敬してきた。そういった尊敬が情報革命で崩れてきている。単に資格者が増えただけの単純な現象ではない。そう考えると現代の士族の没落は日本に留まるとことなく世界的な現象と考えてもいいのかもしれない。

今まで現代の士族について否定的なことばかり述べてきたが、もちろんすべての士族が急に駄目になってしまうわけではない。時間をかけて衰退していきながら新しい士族が生まれてくる。明治の世襲士族だって2007年まで続いてきたものもある。」

「それは一体何ですか?」

椰子の木「特定郵便局長という国家公務員だ。国家公務員なのに最近まで世襲されてきた。日本の国の恐ろしいところはこういった事実が最近まで明らかにされてこなかったところだ。いずれにせよ平成の士族も没落しながら当分続いていくことだろう。ところで君は包装士とういう資格を知っているか?」

「上手に包装する資格ですか?まさか。」

「それがあるのだよ。嘘だと思うなら調べてごらん。資格と言うのは力のある団体、国とか大きな社団法人などが基準を決めて認定したものだ。資格とはそういうものだと認識して自分にどういう付加価値をつけていくか、よく考えることだ。一般の親は『自分の子供には好きな職業について欲しい』というが、そういう親は子育てを放棄しているとしか俺には思えない。子供には自分が将来どんな資格や仕事を持てば士族の仲間入りができるかなど判断できないからだ。」

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