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夢の中の老人

第10話「出世する方法」

私は満開の桜の木の下で地面に散った花びらを見ていた。
「業績を上げている私が、なぜ同期入社の人たちより昇進が遅れてしまうのだろう?」
そんなことを考えながら物思いにふけっていた。ふと足音に気づいて目を上げると老人が立っていた。
「何を考えているのだ?」と老人は私に声をかけた。

桜「じつは私だけ昇進が遅れているのです。同期の誰よりも業績を上げているのに認めてもらえないのです。」

「なるほど。そういうことか。それなら俺が出世する方法を教えてやろう。俺にはお前さんが何故出世しないか想像がつく。この方法はとても役に立つはずだ。」

「そんな方法が本当にあるのですか?」

「あるとも。この方法を教えてくれたのは俺の彼女だ。彼女と知り合ったのは俺が35歳の時、彼女は確か75歳だった。」

「40歳も年上の彼女ですか?」

「そうだ。彼女は20歳の時に47歳の男と結婚した。25年ほどして旦那を見送った後、生保レディになった。俺が初めて出会った時、彼女は髪をヘアスプレーで固めて紫色のグラディエーションのかかった眼鏡をかけていた。

君も知っていると思うが、生保レディというのは生命保険会社の社員じゃない。生命保険会社と契約している個人経営者のような存在だ。彼女は生保レディとして抜群の成績を上げて保険会社の正式な社員になり、支店長まで上り詰めた。俺が知り合った時は定年なしの参与だった。
ある日、俺は彼女を食事に誘った。馴染みの鮨屋で鮨をつまみながら彼女にどうして出世できたのか秘訣を教えてくれと頼んだ。そうすると彼女は出世するためのとっておきの方法を教えてくれた。」そう言うと、老人は春の風に舞い上がる花びらに目をやった。

「どういう方法なのですか?」

「それは絶対に人の悪口を言ってはいけないということだ。少しでも悪口を言えば必ず本人に伝わるから絶対に言ってはいけないと教えてくれた。」

「そんな簡単なことですか?そんなことで出世できれば誰も困りませんよ。」

「俺も初めて聞いたときはそんな簡単なことなのかと思った。だが実行しようとして、とても出来ないことだと分かった。悪口を言わないというのは辛いことだ。ところで君は上司の悪口を言っていないか?」

「ウチの課長は部長にゴマばっかりすっているので、皆がそんな噂をしています。」

「君も悪口を言っているだろ?」

「悪口と言うより本当のことです。課長は自分の失敗を部下に押し付けたりしますから。」

「それが事実としても課長にとっては悪口だ。君の悪口は間違いなく課長に届いているはずだ。」

「たとえ私の悪口が課長に伝わっていたとしても、皆が言っていることですから皆の悪口が届いているはずです。」

「それなら何故、君だけ昇進が遅れる。そうだろ。君の悪口だけが課長に伝わっているのだ。」

「どうしてですか?」

「誰かが課長に告げ口をする、そんなことを考えたことはないか?君の業績がねたましい同僚が課長に告げ口する。悪口を聞いた課長は腹が立つし、出来る部下は自分にとって脅威だ。だから君は[業績は上げるが協調性がない]という評価を課長から受けて出世できない。告げ口をした人物は、自分に忠実だからと、課長が可愛がることになる。悪口は必ず伝わる。しかも悪口を言っているのは君一人のように伝わるのだ。」

「どうして僕だけなのですか?」

「それは君が業績を上げているからだよ。君みたいな愛想のない男が一番嫌われる。」

「本当ですか?そんな風に考えたことはありませんでした。」

「世の中には思ったことを口にするのが正直者だと勘違いしている人がいる。君もそうだ。たとえ課長が無能でもそれを口に出したところで何の得にもならない。君のような自信家は平気で悪口を言うが、業績を上げていない奴は意外に小心で無口なものだ。」

「そんなこと言われても悪口を言わずに過ごすことなんて、とても出来ない気がします。」

「簡単なことじゃない。悪口を言わないで我慢していると、何だか課長に媚を売っているように感じることがあるかもしれない。だが黙っていることはゴマをすることでも自分の気持ちを誤魔化すことでもない。無駄なことは言わない訓練だと思えばいい。」

「そんなこと考えただけで、うんざりしますね。」

「君が悪口を言う原因は自分が評価されないことだ。業績だけで評価がされるなら君も納得がいくのだろうが、そうではないことに腹を立ててしまう。確かに日本では業績だけでは評価されない。それは、日本の会社では農耕民族的経営がされているからだ。」

「農耕民族的経営ですか?」

「日本人はもともと農耕民族だから日本の会社は農耕民族の気質を受け継いだ運営がなされている。そう言ってもピンとこないだろうから説明しよう。君も知ってのとおり農耕社会では多くの人が共同して作業をする。稲作が基本だから田植えから稲刈りまで共同作業だ。もし共同作業の中で和を乱す者がおれば組織に破綻をきたす。怠け者がいればもちろんだが、抜群に能力が高い者がいても処遇に困る。」

「どうしてですか?」

「抜群に能力の高い人がそれに応じた報酬をくれと要求されると困るのだ。集団作業の中で一人が頑張っても、しょせん他人の助けなしに収穫を得ることが出来ない。たとえば100人が共同作業をする中で、人の3倍働く人が一人いたとしよう。そうなら収穫は103人分となり、その人が3人分の収穫をもらえるはずだ。だが3倍働いても残りの99人と仲良く共同作業をしないと103人分はおろか100人分の収穫もできない。つまり3倍働く人に3人分の収穫を渡すと、他の人たちから『我々の協力なしには収穫できなかったはずだ』と文句が出る。だから3倍働いても収穫の配分は他の人と同じになる。」

「確かに。そういう感じがあります。」

「日本の会社で偉大な発明をしても研究者の成功報酬というものが認められてこなかった。青色ダイオードを発明した中村氏と会社の係争は有名だ。研究費を出したのは会社だというわけだ。平凡な人間には発明はできないのに[研究者には金一封を渡しとけばいい、そうでないと他の研究者との給与バランスが壊れる]と日本では考えるわけだ。

では失敗した時はどうだろう?じつは大きな失敗でないかぎり失敗しても責任を問われることがない。例えば誰かが水田に水を入れ忘れて被害が出ても、その人を攻め立てると不協和音が生じる。だからすべてを水に流していく。さらに意思決定が必要な時はすべて合議にして、失敗も成功も個人に行かないように工夫がされている。 原発事故でも誰が指揮をとったかわからないだろ。失敗を個人に帰すことができないのも農耕民族に由来した組織運営のせいだと考えれば理解しやすい。」

「なるほど。成果も失敗も曖昧にしていく中で、私みたいな人間、つまり成果に対する対価を要求する人間はどうしても悪口を言いたくなってしまう。だから悪口を言ってはいけないということですか?」

「そうだ。悪口をいわないことは重要だ。能力がなくても調整役のような人物が出世していくのも日本の組織の特徴といっていい。」

「もしそうだとしたら私みたいな人間は出世する可能性はないのですか?」

「どんな集団の中にいても悪口を言う奴は出世できない。それは日本でも外国でも同じだ。ただ君が悪口を言ってしまう原因が農耕社会型の会社の運営、つまり日本人の妙な平等主義にあるなら、欧米の会社では狩猟民族の伝統を受け継いだ運営がされているから君は満足できるかもしれない。

狩猟社会では個人の能力が明確に分かる。鉄砲の腕があれば獲物を沢山取れるが、腕が悪ければまったく取れない。多くの獲物を取って皆を食わせているのが誰かが、はっきりしている。だから狩猟社会では個人の能力を積極的に評価する。つまり自分を主張しても業績を上げる人なら評価してくれる。だから君にとって居心地がいいかもしれない。」

「なるほど、外資系か。」

「日本の学校では走り競争をしても最後はみんなで手をつないで一緒にゴールという教育がされてきた。運動能力が高い者も低い者も皆一緒に仲良くという教育だ。いわゆる和をもって貴しとなすだ。多くの日本人は気づいていないが日本の学校では農耕民族になるための様々な教育がされている。成績がよくても飛び級ができる大学さえ日本にはほとんどない。皆平等なのだ。多分、君は日本の公立学校で教育を受けていないはずだ。」

「確かにそうです。でも、どうして分かったのですか?」

「のどかな春の日に男が一人で花を眺めていればすぐに分かる。農耕民族は長い歴史の中で人と共同作業をすることに馴染んでいる。だから人と群れたがる。町を作るにしても暑苦しいくらいに集団で住む。狩猟民族は自然が好きで人の密度を嫌う。人と人の距離が近いのを好むのが農耕民族的性格、人と人の距離が遠いのが狩猟民族的性格と考えると大きく外れることはない。君は狩猟民族の教育を受けているから帰国子女だろ。それに課の連中と宴会に行くのが苦痛だし、満員電車が苦手で朝早くに出社しているはずだ?」

「当たりです。そんなことまで分かるのですね。」

「今まで日本の会社は農耕社会的運営をして成果を上げてきた。社員一同でカイゼンをして製品を作っていけばよかった。だがそんな農耕型の会社が成功する時代は終わった。これからは天才的アイデアのある狩猟民族的な人間を大切にしなければならない時代だ。アップルのスティーブ・ジョブスみたいな人間が必要だ。ここ20年で日本の世界的な会社の多くが駄目になってしまったのは、あまりに平和的な農耕民族型会社経営をしてきたからだ。

満開の桜もし君が悪口を言わなくなると、面白い現象が起こる。まず、いろんな人が君の所に相談に来るようになる。仕事のことだけでなく、生活での悩み、例えば恋愛、家族問題など様々だ。そんな時、君は聞き役に徹すればいい。相談する奴は相談したいのではなく、喋りたいだけだ。黙って聞いているだけで、とても信頼されるようになる。悪口を言わない人間には何を喋っても大丈夫という安心感があるからだ。そんなことを続けているうちに課長さえも君を頼ってくる。そして君は出世していく。」

「ところで、あなたは彼女に教えてもらうまで悪口を言ってきたのですか?」

「そうだ。俺は彼女からそんな話を聞くまで人を批判するのが正しいと考えてきた。だから彼女のアドバイスを聞いたときはとても驚いた。だが、悪口を言わないように注意するようになってからずいぶんといろんな事が分かってきた。自分が悪口を言うのは楽しいが、他人が悪口を言っているのを聞くのは不愉快だと分かった。また悪口が多い奴は影で俺の悪口を言っていないか心配になった。そして、悪口を言わないことはサラリーマンの出世だけでなく自分で起業する人にとっても成功する秘訣だということも分かった。もし他人に言いたいことがあるなら面と向かって言えばいい。そうでないなら黙っていることだ。 ただし、悪口を言わないことは容易ではない。とてつもなく忍耐しないといけない時がある。もし君が悪口を言わないでいたら大変な出世につながると期待していい。なんせ君は業績を上げられる人間なのだから。」

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